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●龍に襲われ命落とす 日向の山奥、米良という小さな村に、漆職人の兄弟が住んでいた。兄は安佐衛門、弟を十兵衛といった。 ある日、安佐衛門は新しい漆の木を探しに山へ出掛けた。途中、米良川沿いのがけ道で、足を滑らせ、鎌(かま)を手から離してしまった。鎌はがけを滑って川のふちに沈んでいった。困った安佐衛門はふちに潜ることにした。底に着いて探ると、手が鎌柄に触れた。 柄をつかんだ途端、安佐衛門は、ヌルッとしたものを感じた。水面に顔を出して、手を見ると、何とそれは漆ではないか。しかも、極上の漆である。安佐衛門は、もう一度潜ってみた。やっぱり漆だ。見事な漆のふちだった。欲の深い安佐衛門は、独り占めにしようとした。 翌日から安佐衛門は、ふちの漆をすくった。そして十兵衛と一緒に、球磨表(熊本県人吉市)に売りに出掛けた。兄の漆は弟のものよりはるかに高価で買い取られた。驚いた十兵衛がある朝、家を出る兄の後を付けたところ、兄がふちに潜って漆をすくっているではないか。それから十兵衛は、兄に内証でふちの漆を採り始めた。 幾日か後、2人は売りに出た。今度は2人とも今までにない高値で買い取られた。驚いたのは兄の安佐衛門。弟の様子に気付いた兄は、それとなく弟の後を付けてみると、弟がふちの漆を採っているのを見つけた。 安佐衛門は、球磨表から木彫りの龍(りゅう)を買って帰り、ふちの底に置いて弟を追い出そうと考えた。何も知らない十兵衛がふちに潜ってみると、龍が火を噴き、つめを立てて襲いかかってくるではないか。驚いた十兵衛は、帰るなり兄に龍のことを告げた。 安佐衛門は、これで漆は自分のものになったと、ふちに潜っていった。ところが、そこにいたのは木の龍ではなく、本物の龍だった。龍に襲われた安佐衛門は二度と水面に上がってはこなかった。 安佐衛門には、臨月を迎えた妻がいた。妻は悲しんで、龍をのろい、21日の願をかけた。満願の夜、白むくに身を包み、短刀を口にくわえた妻が、ふちの岩の上に立っていた。 妻は、静かにふちに入っていった。間もなくふちの水が大きく動いて、龍がウロコを光らせて川下に流れていく。そして妻の姿も、水中から消えた。何日かたったある日、ふちの底に龍の頭の形の石が見られた。 中武雅周
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