みやざきのうたと芸能101ロゴ 春節・秋節

 
●山の暮らし映す唄暦
 九州山脈の山懐に抱かれた椎葉村には、伝統の焼き畑や狩猟と結び付いた神楽や民謡などの民俗芸能が、ゆたかに伝承されている。
 とりわけ50を数える多彩な民謡は、山村の暮らしの有りようや、歩みを知る上での貴重な文化遺産と言ってよい。ここでは一年を通しての行事や仕事が、今なお唄(うた)の暦に合わせて行われている。それらを代表するのが「春節」と「秋節」である。
 春は花咲く 木萱も芽立つ 立たぬ名も立つ 立てられる
 春になればそ うぐいす鳥は 山を見立てて 身をふける
 谷間のウグイスが春の訪れに身を震わしているの一節には、喜びがあふれ出ている。この「春節」は野山の木萱が青く芽吹き始めるころに、山の行き来や集まりの中で歌われる、自然体の伸びやかな民謡である。そして昔から、この季節以外に歌ってはならないとされている。
 「秋節」もまた山々が紅葉し、渓流の水面を染めるころ、山の作業やクリ拾いなどで歌われている。
 秋の紅葉と 十九の花は 散らせ給うなやや 何時までも
 秋になればそ だごしてかろて 尾前越しやれ 楽らくと
 深山の叙情を織り込んだ、古謡を思わせる美しい旋律である。土の香りが何とも言えない。
 こちらも「春節」と同じように、秋が訪れなければ歌ってはならないとされている。もしこのタブーを破って、戯れにでも歌った場合、山の神が三尺浮き上がり、必ず戒めを受けるだろう、そう言い伝えられている。つつが無い四季の巡りや身の安全を願い、長い時をかけ歌い継いできたこれらの唄は、山里に暮らす人びとの自然への畏敬(いけい)であり、感謝にほかならない。民俗音楽研究家として知られる小島美子氏は、「春節」や「秋節」といった椎葉型民謡の明るさと美しさについて、東日本の民謡に多く見られる民謡音階とは異なった、「ソラドレミソ」という西日本一円の律音階(りつおんかい)や、その変種が大きくかかわっている。そしてこれを独自の歌唱や声の色が助けている、と説明されている。こうした魅力に富む椎葉の民謡の中で、「春節」と「秋節」は、自然と人間の共生を願う、素晴らしいパストラルである。
原田 解
メモ
 古くから歌い継がれて来た唄暦は、「正月の祝い唄」に始まって、「春節」「的射節」「茶摘み唄」と続き、「田植唄」「秋節」から初冬の「ひえつき節」、そして結びの「神楽ばやし」へと巡って行く。季節が順調に訪れ、ゆたかな実りをもたらしてくれるようにと、山の神に祈りささげる季節唄は、南の離島や東北の一部、それに椎葉村などの限られた地域だけに、現在歌い残されている。





椎葉村の写真
四季の自然と唄に
恵まれた椎葉村


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