●炎天下の疲れほぐす
「田の草取り唄」は、水田に生い茂った雑草を取り除く際に歌われる仕事唄(うた)で、米どころ宮崎にふさわしい、田園情趣たっぷりの民謡である。
県内では旧の農事暦の5月が普通作の田植えに当たり、田の草取りは初夏から真夏にかけての炎天下で行われてきた。
ハアー 様よ三度笠押しゃげてみやれ少しお顔が見とござる ホイホーイ(以下略)
ハアー 恋し小川の鵜の鳥見やれ 小ぶなくわえて瀬を上る
ハアー 上と下とで掛唄やろか どちが勝つやら負けるやら
農作業のほとんどが手仕事だった時代、農家の人たちはうだるような暑さの中、水田に腰をかがめ、時にははうようにして、日の落ちるまで雑草抜きを続けた。
炎天下の厳しい作業なので、疲れをほぐし、手をはかどらせるために、この唄が歌われた。とりわけ風田地区は「結・ゆい」が盛んで、男女共同の場が多かったので、自然恋の唄も口にされた。
ハアー 好いたそ様に田の草取らせ 涼し風吹け 空くもれ
きつやつらやの作業とは裏腹に、旋律の美しいさわやかな仕事唄で、めりはりの利いた歌唱が、田園情緒にいっそうの彩りを添える。
はやし言葉の「ホイホーイ」は、風を呼び込むためとされている。せめて一陣の風が欲しいという願いでもあろう。類似の民俗をヒマラヤ山ろくの稲作にも見ることができる。
音頭取りを経験した古老の話によれば、時には湯のようになった田の水でのどをうるおし、歌い続けたという。
やっさ節なら 尻高うつぶれ ジャンソジャンソー 前のむた田は 深うござる
綾町の「綾田の草取り唄」も、明治以前から同じように歌われてきた仕事唄。明るく弾んだ節調で、薩摩弁のはやし言葉が面白い。「安久節」とのかかわりも読み取れる。
これらの民謡は東北から九州まで全国各地に分布し、恋の唄、はやり唄、盆踊り唄などがよく歌われている。とりわけ田植唄からの転用が目立つ。
早期栽培が盛んになり、また機械化が進んで、こうした稲作歌謡も次第に姿を消しつつある。ぜひとも民謡ファイルに留めておきたい一曲である。
原田 解
県内では宮崎市、国富町、北郷町、南郷町、西都市、新富町にそれぞれ「田の草取り唄」が歌い継がれている。また延岡市では「田の草びき唄」とも呼んでいる。「酒谷田の草取り唄」では、地元の猪目イネの素晴らしい歌唱が、コロムビア・レコードほかに吹き込まれている。
仕事唄が流れた
日南市の棚田
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