みやざきのうたと芸能101ロゴ 日向田植唄

 
●のどかな美しい旋律
 県内を西から東へと横切る、5つの大きな流れの流域は、肥沃(よく)でしかも水や日照時間に恵まれ、昔から稲作や園芸が盛んである。とりわけ綾町を頂点に、日向市と串間市とを結ぶ「グリーン・トライアングル」は、実りゆたかな稲作文化圏で、焼き畑文化圏とは異なる民俗芸能が数多く伝承されている。
 腰の痛さよ せまちの長さ 四月五月の日の永さよ ホイホーイ(以下略)
 四月五月は 乳飲子が欲しや 畦(あぜ)に寝かせて乳飲ましょ
 四月五月は 寝てさえ眠い 憎いしば茶が夜寝せぬよ
 これは県内の田植えでよく歌われる「田植唄(うた)」である。素朴で土の香りのただよう仕事唄である。のどかな旋律を通して、水田にきらめく初夏の日差しや、広がる青空が浮かび上がってくる。
 この民謡は田植え綱を受け持つ長老の音頭取りたちが、みんなの手をそろえ、励まし元気づけるために、畦道から緩急自在に歌いかけ、全員がこれに唱和する形がとられている。したがって水田に早苗を差す手、引く手の動きが、唄のテンポを左右している。
 歌詞にあるせまちは田の畦のこと、四月五月は旧の暦で、このころは茶摘みから田植えと続く農繁期で、幾らでも加勢が欲しい忙しさ。せめて乳飲み子でもいれば一息入れられるのに、という願いが込められている。
 「田植唄」は県内全域に分布しているが、中でも西郷村に歌い伝えられている「西郷田植唄」の美しい旋律がもっとも親しまれ、一般に「日向田植唄」と呼ばれている。これにはこの曲を世に出した、地元出身の歌い手奈須美静の、民謡会を通じての普及活動が大きくかかわっている。
 7月7日の田代神社の夏祭り「御田祭」は、伝統を誇る農事信仰で、当日は神人や牛馬が一体となって水田の聖地や田植えを行い、参拝者の息災と豊作を祈る。その際に歌われるのが「田植唄」だが、平安時代の催馬楽(さいばら)の歌詞も伝えられていて、古い田楽神事をうかがい加ることができる。このほか集落の田植えでも、隣り合った植え手と即興の掛け合いで歌われ、珍しい二の句返しの歌唱も残されている。鄙(ひな)唄としての土の香りは、そうした暮らしの背景からきているのだろう。
原田 解
メモ
 西郷村では毎年の「御田祭」に合わせて「日向田植唄全国大会」を行い、民謡の普及と後継者の育成に当たっている。この唄のレコードには、奈須美静がコロムビア、ポリドールなどに吹き込んだ標準歌唱がある「田植唄」の類似曲としては、「苗取り唄」「田の草取り唄」などがある。





御田祭の写真
早乙女が早苗を植える
西郷村の御田祭


目次へ 69 酒谷田の草取り唄のページへ
71 五ヶ瀬茶摘唄のページへ