みやざきのうたと芸能101ロゴ 泣こかい跳ぼかい

 
●遊びで勇気培う子供
 「あっ、深ーい溝があるよ、ほらきてん」。順平の驚いた声にみんなが駆け寄る。冬枯れの野原は思いもかけぬ広がりを見せ、子供たちの遊びの範囲がぐっと広がり、遠出の楽しさがたまらない。そこには新しい発見があり、未知の冒険がかげをひそめているからだ。
 順平のもとに駆け寄ったみんなは、足元に口を開けている深い溝を前にして、ただ顔を見合わせるばかり。それまでのときめくような探検気分はどこへやら。
 「深いねえ、底は見えんよ」
 「跳び越えられんわねえ」
 「うん、広ーくて、深ーいもんねえ」
 すると、
 「こんくらい何じゃな、まじないかけたらすぐ跳び越えらるいが」
 と、5年生の孝夫。
 「じゃあ、跳んでんない…」
 と、いつもだったらここではやし立てるのに、きょうはみんな顔を見合わせるばかりだ。
 だが孝夫は決心しているらしい。両手を合わせ、目をつむり、まじないの歌を歌い始めた。
 泣こかい 跳ぼかい 跳ぼかい 泣こかい 跳んだ方がましじゃ パンコセッ
 あっという間だった。孝夫は深い溝を跳び越え、向こうの土手で得意のポーズを決めている。
 「わぁ、驚いた、すげえが」
 「まじない歌を歌ってん、簡単じゃが」
 するとどうだろう、まず努が跳び、順平が続き、健までが深い溝を跳び越えて行った。
 「三郎、おまえはこんめえかい無理じゃ。向こうへ回ってこいよ。まだ1年生じゃもんね」
 「ふん、よう跳ぶわい」
 泣こかい 跳ぼかい
  跳ぼかい 泣こかい
 三郎は目をつむり、手を合わせ、何度も何度もまじない歌を繰り返していたが、やがて、
 「跳んだ方がましじゃ」と、ひときわ大声とともに、「パンコセッ!」
 三郎の小さな体は宙に舞い、努の前に転がった。
 「よう跳んだねぇ、三郎」と努たち。三郎は、
 「ふん、おらぁ、足が長ーいもん」
 とっ言ってその細い足をみんなの前に差し出した。
高橋 政秋
メモ
 子供にとって広い野原や深い森は未知の世界。興味をひき冒険心をくすぐる。だがそこには広い溝があり高い土手も待っている。自分の技量と勇気に向かい合わされる場面である。こわいけどあいつも跳んだ。泣いたら笑われる。そこで「パンコセッ」の掛け声とともに跳び越す。幼い日味わったこの情動は、大人になって選択や決断を迫られる時、いつでも頭をかすめるもののようである。





泣こかい跳ぼかいのさし絵


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