みやざきのうたと芸能101ロゴ ガグラドン

 
●かっぱよけのじゅ文
 7月の下旬、水浴びの季節だ。
 6年生の努が、
 「おーい」と言いながら右手を上げ、人さし指と中指を立て、その2本の指を交互に折り曲げてみせる。そのちょっと変わった努の合図を見ると、下級生たちは胸がわくわくしてくる。
 努の合図は、”水浴びに行くぞ”という秘密の合図なのだ。だが、その秘密のサイン、実は地区の大人たちはみんな知っている。なぜってその合図は、この地区に昔から伝わっている水浴びの合図なのだから。上級生で思いやりのある努が、地区の子供たちを水浴びに連れていくことに、親たちはみんな安心しきっている。
 「行く行く」「おれも連れて行って!」
 どこから見ていたのか、遊び仲間5人の顔がさっとそろってしまう。
 1年生の三郎が、集まったとたんに駆け出す。
 「サブ、水浴びの前には走っちゃいかんよ」
 努あんちゃんのいつもの注意だ。
 「ふーん」。三郎はわかったように答えるが、心ははやるばかり。だって三郎はきのう泳ぎを覚えたばかりなのだ。努たちが体を支えてくれたおかげで初めて泳げたのだから。きのうは5メートルも泳げて、ゆうべは眠れないくらいだった。川に着くなり三郎は川に飛び込もうとする。「だめだ。まじないをかけんと、ガグラドン(かっぱのこと)からしりごを抜かれるとよ」と、
5年生の孝夫。
 「じゃかい、まじない歌を歌って泳ぐとよ」
 2年生の健が上級生ぶって三郎に教える。
 みんなは川を向いて1列に並び、歌い出した。
 ガグラドン ガグラドン 猿渡すど 猿渡す
 子供たちは何回も何回も声をそろえて歌う。
 「なんで、猿渡すというと?」
 「ガグラドンはね、猿が一番こわいとと」
 「だから、この歌でガグラドンを追っ払ってから、川を渡ったり川に入ったりするとよ」
 「いいか、おまえもちゃんと覚えろよ」
 「うん、もう覚えたよ」
 ガグラドン ガグラドン 猿渡すど 猿渡す
 何回も聞いているうちに、三郎の口からもかっぱまじない歌が聞こえてきた。
高橋 政秋
メモ
 ガグレサア、ガランポ、ガワタロ、カワンヒト、ヤマンヒト、セロボウ、カリコボウ、スイテンポス。ほかに20余り。これは本県におけるかっぱの方言名である。もとよりかっぱは想像上の動物、ある時は怖がられ、ある時は親しまれ、あがめられ…。串間市笠祇ではガグラドンと呼ぶ。ガグラドンは猿を怖がる、という俗信がもとになったたわいないまじない歌である。





ガグラドンのさし絵


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