みやざきのうたと芸能101ロゴ ズストントン

 
●成長期の儀礼並べる
 一つでは乳をくわえて
  二つで乳をゆるした
  三つでは水の汲(く)み初め
  四つで世の事仕初めた
  五つでは糸の縒(よ)り初め
  六つで金襴(きんらん)織らせた
  七つでは馴(な)れの掛け初め
  八つで屋敷広めた
  九つではここと定めて
  十で殿御と寝初めた
  十一では花のようなる吾子をもうけて
  巣山 松山 雨の降る夜はズストントン まいっちょズストントン
 椎葉村不土野で巡り合った歌である。まりつきでも歌っていたということであるが、県内のみならず、他県の文献にも類歌を見ない珍しく貴重な歌である。歌ってくださったのは、那須カネさん、奥椎葉の豪壮な庄屋跡に住む教養深いおばあちゃん(当時80歳)であった。歌詞は数え歌の形をとっているが、何とも格調を感じさせる歌である。人の一生のうち、1歳から11歳まで、それぞれの年に訪れるいわば成長期のイベント(通過儀礼)が並べられていて、いろいろな意味で興味深い。
 七つでは馴れの掛け初め
  十で殿御と寝初め
  十一では花のようなる吾子をもうけて…
 このような歌を10歳前後の少女たちが、まりつきをしながら歌う…
 また、ひとり子守をしながら口ずさむ世界。
 子供たちの胸にはどのような情動が流れていたのだろうか。わらべ歌は、子供たちの暮らしの中から自然発生的に生まれたものが主流ではあるが、中には民謡からの流用や、大人が歌づくりして意図的に子供たちに歌わせたのではなかろうか、と思わせるものもある。さしずめこの歌はその後者に属するものではなかろうか。歌詞や旋律に見られるある種の格調からみても、古い時代それなりの立場にあった人によって作られた歌か、あるいは京都あたりから下って、ここ奥日向の庄屋に代々歌い継がれてきた歌なのか、興趣を誘う歌だと思われる。伝承者のカネさんは、この歌をさらっと歌われたあと、そのような採譜者の心のうちをおもんぱかられたのか、「あら、はずかしいわの、こげな歌を子供んころ、歌うていたんじゃろかの」と言って、顔をゆるめられたのを思い出す。
高橋 政秋
メモ
 なんでこんな歌がここにあるのだろう。一語一行がまるで民俗史の一隅一景を提示されるような歌ではないか。伝承者によると、まりつきなどでも歌っていたということであったが、人生の通過儀礼としての馴れの掛け初め、殿御との寝初め、そして出産。これらが遊び歌の中にさらりと歌い込まれていることに、先人の知恵をくみ取りたいものである。





ズストントンのさし絵


目次へ 86 おとっさんおっかさん泣かしゃるなのページへ
88 早くくりゃよい正月盆がのページへ