みやざきのうたと芸能101ロゴ 早くくりゃよい正月盆

 
●父母への思い美しく
 西の空が赤く染まってきた。カラスが3羽、4羽と連れ添って、ねぐらを目指して帰っていく。
 カラスが鳴くから かーえろ
    チョイチョイ(と手をたたく)
   あしたもいっしょに あーそぼ
    チョイチョイ(手をたたく)
 サヨもゆきもよしえも、夕日を浴びながらさっと帰って行った。だが、子守奉公に来ているキクの足取りは重い。おばさんたちが親類のお祝いに行ったので、きょうは久しぶりに近所の子供たちと遊べた。だが、あんまり楽しくて、帰る時刻を忘れてしまった。
 −洗濯物も取り込んでいない。庭に干してあるもみのむしろもたたんでいない。そういえばお昼のお茶わんもおけにつけたままだ−
 きっとしかられる。きょうはどんな罰が渡ることだろう−
 こんな時思いだすのはきまってふるさとのことだ。だがキクは自分の生まれ在所がどの方角なのか知らない。子守娘を連れてくるのは夜と決まっていた。昼だと道を覚えていて、帰ってしまうからであった。キクは自分の生まれ在所は夕日の落ちる西の方角と決めていた。西の空に落ちる夕日は、だれの顔も同じようにやわらかく染め上げてくれる。黒いカラスの群れをいっそう黒いシルエットに浮かばせるのも、夕日の好きな理由だった。すでに日の落ちた西の空には、名残惜しそうに横雲がたなびいている。金色に輝いていたその美しい帯雲もやがて明るさを失い、次第に黒みを増していく。
 −父ちゃんは元気だろうか。母ちゃんはどうしているかなあ。ああ、ばあちゃんの顔が見たいよ− こんな時、キクの口をついて出てくる歌がある。
 早くくりゃよい 正月盆が きたらわが在所(しょ)へ 帰るぞよ
  帰ってお母さんの 顔を見る 早くくりゃよい 正月盆が
  きたらわが在所へ 帰るぞよ 帰ってお父さんの 肩たたく
 わが在所(ふるさと)に帰ったとて、おいしいものがわたるわけではない。でも、お母さんの顔を見るだけでいい。痛いといっていたお父さんの肩をたたいてやりたい。それだけでいい。帰りたいよう、西の空の下、わが生まれ在所へ。
高橋 政秋
メモ
 200曲を超える本県の子守歌について、その歌詞、曲調から見てみると、おおまかに3つに分類できるように思う。1、寝させ歌 2、遊ばせ楽しませる歌 3、守り子歌である。その意味で今回の歌は典型的な守り子歌である。哀切胸をかきむしられるような美しい旋律を持った歌であるが、不遇な守り子娘からどうしてこんな美しい歌が? と口ずさむたびに踏みとどまってしまうような歌である。





早くくりゃよい正月盆がのさし絵


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