みやざきのうたと芸能101ロゴ ひとりで淋しい

 
●愛らしく上品な曲調
 ここは高千穂町向山。奥まった諸塚山の頂に、ほんのりと赤みがさしているのに気づかされる−。これが紅葉の始まりだった。紫色の山頂を冠のように包んでいるその赤みは、あちこちに黄色などを混ぜ込み、日ごとに華やぎつつ照り映えを増し、ふもとの方へすべり落ちてくる。
 やがて人里をも包み込み、綾錦(あやにしき)にもえあがり、谷川を埋めつくす。
 「今年の紅葉は花んごつあるばい」
 「ことしゃ台風の来んかったけん、美しかとばいの」
 紅葉をいつくしむ里人たちの顔も、心なしか赤らんで見えたりする。紅葉もいわば花であり、花びらのようにさっと散りゆくのが、県南の杉山ばかりを見慣れている者には、ひとつの快い発見に思えてくる。
 高千穂地方のわらべ歌には、九州山地の中央という地形のほかに、さまざまな条件が重なって、古く珍しい歌が残されている。
 次の歌は、正月の歳事遊び、羽根つきをする時の歌である。
 ひとりで淋(さび)しい
  ふたりで参りましょ
  見渡すかぎり 嫁菜にたんぽぽ
  妹の好きな むらさきすみれ
  菜の花れんげ やさしいちょうちょ
  ここまでおいでなさい 峠に参りましょ
  ひとんご ふたんご みやたが よんご
  いつやが むさし ななんご
  やっちろ くぐを とむや
 寒風の中の高千穂の正月、やがて訪れる花の季節を予祝するような優雅な歌詞である。よく見るとこの歌も羽根つき歌に共通する数え歌の形をとっているのがわかる。
 しかし、それもまた伏せ字みたいに一見しただけでは見破れまい。巧妙な仕組みをもった歌である。それにしてもこのような情緒豊かな遊び歌をつくった先人の言語感覚に驚かされる。
 曲調も実に愛らしく上品である。高々と打ち交わす羽根つき遊びにふさわしく、ゆったりとした二拍子、晴れ着姿の女の子たちの喜々とした声や、ムクロジの実で手作りしていたという羽根玉の乾いた音も聞こえてきそうだ。おそらく下り物(京都あたりから流布してきた歌)であろうが、五ヶ瀬川をさかのばって源流の地にたどりついたものか、それとも竹田、もしくは熊本あたりから伝わってきた歌なのだろうか。追想するだに楽しい歌だと思う。
高橋 政秋
メモ
 本文にも述べたように、歌詞にみる伏せ字の才覚や品格ある詩境、新春をたたえる視座のありようなど、どこから見ても詩作者の水準の高さを思わせる。またゆったりと粘っこいリズムも風雅な羽根つき遊びにふさわしい。





ひとりで淋しいのさし絵


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