みやざきのうたと芸能101ロゴ ちにれちにれ

 
●語りかけ眠りに誘う
 ちにれ ちにれ ちにれ ちにれ ちにれ
  ちにれ わんわんさんが くっど ちにれ
  ちにれ よかど よかど ちにれ ちにれ
 まるでことば遊びのような「ちにれ」の羅列。これが歌だろうか、とだれしも思うに違いない。
 歌詞の大半を占める「ちにれ」という詩句、これは、ちん寝れの縮まった言い方で、ちんは小さいものを指す。つまり、「赤ちゃんよ、眠りなさい」という意である。
 歌詞は、この「ちにれ」のほかには「わんわんさんがくっど」「よかどよかど」が挟み込まれているだけである。
 この子守歌は山之口町ほか諸県盆地に広く分布しているが(鹿児島県の一部にも)、子守歌の専門家である在京の原荘介氏(シンガーソングライター、ギタリスト)にこの歌を紹介したところ、氏は一度にほれ込み、ただちに日本子守歌全集(CD)に、自らのギター伴奏で収録された。先に見たように歌詞は典型的な諸県弁である。「わんわんさんがくっど」─眠らないとこわいものが出てくるよ。「よかどよかど」─いいよいいよ、お休みしなさい、と眠りに誘う歌である。つまり、語りかけのあとの脅しと褒め言葉と安らぎ。この子守歌の要諦(てい)とされる3つの要素が、短い歌詞の中に見事に歌い込まれている。一方旋律面でも、歌詞の流れを受けて、A・B・A′の自然な小3部形式が期せずしてできあがっているのがわかる。
 「ちにれちにれ」というゆったりとした美しい旋律が通奏低音のように曲全体を包み込んでいて、歌全体のトーンを保持していくのもとても印象的である。
 そのあとに「化け物がくるよ」という脅しのメロディーが、Bの部分として立ち上がってくるが、それはすぐさまΑ′のやさしい旋律に戻り、歌い納められていく。
 こうしてみると、この歌、小品でありながら、提示部、変化部、再現部で成り立っていて、レベルの高い歌唱表現にも耐え得る旋律構造を持った歌のようである。私ごとになるが、筆者は諸県育ち、亡母の歌うこの子守歌で育てられた。
 ここまで書いて今ひとつ思い当たることがある。
 この歌、強拍で始まっていない。弱拍、つまり一呼吸おいて歌い始める形をとっている。その一拍の休符の中に、歌う人はさまざまな思いを込めて歌い始めるのではなかろうか。
高橋 政秋
メモ
 母や姉たちに聞いて育った歌である。なんとちっぽけな歌だろう、くらいに思っていた記憶がある。しかし長じて子守歌の世界に分け入ってからというもの、この歌の偉大さにむしろ衝撃を受けた。このような歌に育てられたしあわせ、そしてこのような奥深い歌生み育ててきた諸県人への畏敬(いけい)の念。それに尽きる思いである。





ちにれちにれのさし絵


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