|
●遊女の身ぶり伝える |
おかるばあさんが、縁側で日なたぼっこをしている。さっきまで子猫のタマと遊んでいたのに、隣のクロがやって来て、タマをどこかへ連れ出してしまった。そこへ、6年生の智子たちがやって来た。
「おう、来たの。きょうは3人連れかの」
3人は、にこにこ顔のおかるばあさんを取り巻いて座った。子供たちもにこにこ、何かいいことがあるみたい。
「どうした、うれしそうだねえ」
「そうよ」3人は声をはずませた。
「よしえ、おばあちゃんに見せてやらんね」
智子が言うと、よしえはたもとから赤いまりを差し出した。
「延岡のおばあちゃんが、お年玉だといって」
「どれどれ、まあ、美しかまりじゃの」
おかるばあさんは、しわくちゃの手のひらで、赤いまりをぐるぐる回しながら、
「ぴっかぴっか光っておおっけなまりじゃ、大事に使わにゃよ」と言ってよしえに返した。
「はい」と、よしえが返事すると、3人は声をそろえて、
「おばあちゃん、手まり歌を教えてよ」
「手まり歌? この前教えたじゃろ?」
「じゃけん、まりが新品になったき、新しい歌でつきたいんだよ」
「そうかの、じゃあ、別のを教えてやるか。どれどれ、まりを貸してみよ」
おかるばあさんはまりを手にすると、
「歌だけじゃと、途中で途切れるからの」
それはおかるばあさんの口ぐせだ。手が覚えているからだというのだ。おかるばあさんは立ち上がり、器用にまりつきしながら歌い出した。
かねつけ一匁 かねつけ二匁 かねつけ三匁
かねつけ四匁 五匁にあげて 白粉(おしろい)つけ一匁
白粉つけ二匁 白粉つけ三匁 白粉つけ四匁
五匁にあげて 紅つけ一匁〜五匁にあげて
髪結うて一匁〜五匁にあげて
あがりで シャンシャラリ
おかるばあさんは、右手でつきながら、左手ではそれぞれの動作をしてみせた。そして、「見ている人みんな身ぶりをするとよ」と言った。
「じゃあもう一度歌って」智子が言うと、
「何度でん歌うよ」
3人が立ち上がった。白粉をつけるまね、紅をつけるしぐさ、髪を丸まげに結うところ、楽しくなってきた子供たちは何度も何度も、おかるばあさんに歌わせるのであった。
高橋 政秋 |
 |
遊女の身づくろいが歌い込まれている。おそらく鉱山流しの遊女が伝えたのであろう。子供たちにとって遊女はまるで異界に住む人。特に思春期の女児にとって、遊女の世界は華美であり隠微であるだけに興趣を誘われていたようで、人気の高い手まり歌であったという。 |
|
|
|
|