宮崎県季刊誌「Jaja」じゃじゃ

Jajaバックナンバー

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川遊びとしてのエビ・カニ漁
広渡川のダクマエビと山太郎ガニ

散歩がてらのテナガエビとり

海のエビ・カニ漁は流通を前提にしたプロの仕事だが、川のそれは、川を遊び場にした愉しみとしての色彩が濃くなってくる。北郷町・広渡川のほとりに住むダクマエビ(テナガエビ)とりの名人、大林春吉さんの漁を見ていると、遊びを通り越して散歩がてらの日常そのものといった風情で、うらやましい。「ちょっとついておいで」とサンダルばきで先導されるままにしばらく歩き、小さな竹やぶを抜けると、青い川面が広がる。

エビかごを引き揚げる大林さん
仕掛けておいたエビかごを引き揚げる大林さん。広渡川の清い流れが、昔からの遊び場だ。川底は人の拳ほどの石が敷きつめられていて、水深は膝ほどもない。そこへ前夜に漬けておいたエビかごの白い目印が、いくつも浮かんでいる。
「ここは、まあ私専用の漁場みたいなものですから。別にどこでやってもよかとですけど、人の邪魔をせんでも、場所はいくらもありますしね。もっと深いところがいいかもしれんですが、この年になると※よだきいです(笑)」

本日の水揚げ
本日の水揚げ。テナガエビは塩焼きや唐揚げでもうまいが、かにまき汁と同様に「えびまき汁」にすると、また格別という。

休みで遊びに来ていたお孫さんと二人で、エビかごを次々に上げていく。餌は牛の飼料をこねたもの。かごは竹を編んで自分で作るが、近くの物産販売所でも売っている。鑑札は年間3000円、これでこの豊かな遊びが味わえる。15個ほどのかごを引き上げて、まずまずの漁があった。年々エビは少なくなっている。
「近所の者で分けて食べるだけですから、このくらいでよかでしょう。レストランから、どしてん分けてくれと言われますが、売ってもいくらにもなりませんから(笑)」

テナガエビの塩焼き
こんがりと焼いたテナガエビの塩焼き。独特の風味があっておいしい。


写真左)エビ漁に混じって獲れたモクズガニを、家の裏の小川に生かしてあった。餌はカボチャが一番で、魚などを与えると身に匂いがついてよくないということ。
写真右)立派なモクズガニ。このクラスになると挟む力も強烈だ。

旅する山太郎ガニを捕獲

同じ広渡川の上流部に住む荒武正重さんは、やはり家の近くで山太郎ガニ(モクズガニ)漁を楽しんでいる。山太郎という名にふさわしく、川の相当な上流部にまで棲むカニだが、秋になると列をなして川底を行進し、河口域から海にかけての水域で産卵をする。その行進の途中に通りかかったカニが、餌につられてかごに入るという漁だ。

荒武さんがかごを投げる
荒武さんがかごを投げる。水深は深くても浅くても関係ないが、底が小砂利のところを選ぶ。

「移動は、夜するようですな。月夜は明るくて、餌になる小魚が逃げるんでしょうか、カニがやせております。闇夜の間は、カニも肥えてくる。だから、漁は月夜を避けてやるようにしています。漁といっても、川にかごを三つほど投げ込んで、朝、引き上げに行くだけですが(笑)」

荒武さんに、獲れたカニでかにまき汁を作っていただいた。ペンチのような道具でカニの甲羅をはがしたものを、水と味噌を入れたミキサーにどんどん放り込んで、出来た汁を鍋にかけたら出来上がり。ふんわりとしたカニのエキスが表面に浮いた、滋味豊かな味噌汁だ。これは、山の大切なごちそうだったことだろう。

モクズガニのかにまき汁
モクズガニのかにまき汁
秋口から川を下る山太郎ガニの味噌汁。風味豊かな山のごちそうだ。甲羅をとったモクズガニを殻ごと細かくすり砕き、味噌汁に。山奥の渓流にまで棲むモクズガニは、秋の貴重な蛋白源だった。

テナガエビ