
海岸のクロマツ林は潮害を防ぎ、飛砂の害から家や田畑を守るほか、風致や保健休養林としても役立っていますが、これら公益的な機能を脅かしているのが、いわゆる松くい虫による松枯れ被害です。その主犯格は体長約0.6mm程のマツノザイセンチュウ(以下、線虫)でマツノマダラカミキリが媒介役となって被害を拡大させます。このため、近年ではこの線虫に対して抵抗性を持つクロマツ(以下、抵抗性クロマツ)の苗木が生産されるようになり、被害跡地の海岸等で植栽される事例が多くなってきました。そこで、今回は抵抗性クロマツ苗の生産現状と現在取り組んでいる研究について紹介します。
現在の抵抗性クロマツの苗木生産は実生苗によるもので、種子は高岡町の県有林内にある抵抗性クロマツ専用の採種園から採っています。この採種園には抵抗性が確認された15クローン約150本の母樹が生育しており、春になると雄花は花粉を放出、受粉した雌花は翌年の秋までゆっくりと球果(マツボックリ)を形成し、その中にできた種子を採取します。

採種園の母樹

種子ができるまで
すべての苗木が母樹の抵抗性能力を受け継いでいるとは限りません。そこで、苗木に線虫を接種し、抵抗性を確認する必要があります。方法は苗木養成2年目の夏、苗木の根元に刃物で約3cmのキズをつけ、そこに線虫5千頭が入った懸濁液を接種します。この作業は炎天下の苗畑で行われるため、大変な労力を要します。

播種1年後の床替

線虫接種作業(7月)

苗木の根元への接種
判定は線虫を接種して約3ヶ月後に目視で行っています。葉が変色したり、枯死した苗は抵抗力が弱い苗木とし、葉の色が全く変化しない健全苗は抵抗力が強い苗木(=検定合格苗)と判定します。これら選抜された合格苗は、翌春に抵抗性クロマツ苗として出荷されます。

線虫接種3ヵ月後
接種検定の合格率は年によって若干異なりますが約50%です。つまり、2万本の苗木に線虫を接種した場合、1万本は抵抗性苗として出荷できますが、残り1万本は破棄することになり、生産効率は良くありません。そこで接種検定の合格率を向上させるため、以下の研究に取り組んでいます。
採種園の母樹が正確に植栽・配置されているかをDNA分析で確認してみました(表-1)。
調査した148本のうちラベルと一致したものは133本で、これらは正しく植栽・配置されていると考えられます。一方、別クローンと判定されたのは9本で、ラベルと異なるクローンが植栽されていると考えられ、ラベルの訂正を行う必要があります。さらに、どのクローンにも該当しないものが6本ありました。これは採種園の母樹は接ぎ木で増殖したものを使用していることから、接ぎ木欠損による台木成長と思われ、これらは採種園から除くことが必要です。

表-1 採種園母樹のDNA分析結果
図-1は主な家系についてそれぞれ線虫接種検定の合格率を示したものです。このように、合格率は家系によって差があることが分かります。苗木生産効率を向上させるには、合格率が高い家系(例えば波方73や波方37など)から優先的に育成するのも一つの方法ですが、種子生産量の多い家系「田辺54」の合格率を向上させることも、苗木生産量を確保するためにとても重要と考えられます。
そこで、種子親(母親)が田辺54の場合、どの花粉親(父親)が抵抗性向上に寄与しているかを調査するため、田辺54母樹由来の苗木についてDNA分析を行いました。図-2の円グラフ外側に種子親を田辺54とし、それに花粉親の割合を示しました。この中には、花粉親を完全に特定できなかったもの、採種園の外から花粉が飛んできたと思われるものもありました。
花粉親が判明したものでは、川内290、津屋崎50、波方37、大瀬戸12、波方73の5クローンの父親で採種量の半分を占めていることがわかりました。
さらに、各花粉親別に接種検定結果を円グラフ内側に示しました。花粉親の割合が高い川内290、津屋崎50だけでは健全率が50%以下で、必ずしも合格率向上に貢献しているとはいえません。一方、波方73や三崎90などは枯れがないか少ないことから、今後はこれらの花粉を強制的に交配させることにより、合格率の向上が期待できると考えています。

図-1 種子親家系別の線虫接種検定合格率及び種子生産量

図-2 花粉親の構成と接種検定による健全割合
この研究は、より強い抵抗性能力を持った個体を選抜するため、平成16年度から(独)林木育種センター九州育種場及び九州の各林業研究機関等共同で進められており、線虫の種類と接種頭数を三段階に変えながら選抜するものです。
本県分の選抜対象の苗木本数は2,766本で、これまで一次スクリーニング(16年度)と二次スクリーニング(17年度)を実施し、健全なままの苗木は181本(対当初6.5%)に絞られています。今後は三次(18年度)のスクリーニングを行い、最後まで生き残った個体は挿し木発根性を調査し、その特性が優れていた個体は採穂園の母樹にする計画です。
生活環境を保全する海岸松林の再生に対する抵抗性クロマツの期待は大きく、地域のボランティア団体等による苗木植栽も広まってきました。これに応えるため、これまでの研究成果を活用し、抵抗性能力の高い苗木が安定して供給できるよう実用化を図る考えです。

抵抗性優良個体の選抜試験地

抵抗性クロマツの植栽