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宮崎県林業技術センター

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林技センター情報:No.29(2006年4月)より

クスノキ街路樹の衰退(育林環境部 讃井 孝義)

虫と病気の不思議な関係

日本脳炎が蚊によって媒介されたり、ツツガムシ病がツツガムシによって媒介されることはよく知られています。虫が人へ病原体を媒介するように、虫が樹木に病気を媒介する例もたくさんあります。よく知られている例としては、マツノマダラカミキリによるマツノザイセンチュウの媒介です(センチュウによる被害は病気として扱う)。その他にも今、全国的に問題となっているナラ枯れを起こすカシノナガキクイムシの被害も虫が病原体を媒介しています。
虫が病気を媒介する方法には色々ありますが、唾液の中に病原体が含まれていて、吸血あるいは植物の場合ならば、吸汁する時に唾液とともに相手に移るというのが多いようです。他にも卵を産む時に卵と一緒に病原菌の胞子を産み込むとか、マツノマダラカミキリのようにかじった傷から病原体であるマツノザイセンチュウが落下して潜り込むというようなものもあります。
このように病気の伝染メカニズムを見ていると、誰が考えたのかは分からないけど実に良くできていると驚嘆することがしばしばです。
今回、紹介するのは虫が病原体を運ぶというわけではありませんが、虫の加害によって病気が引き起こされるという例です。

(写真-1)クロガネモチ街路樹の衰退(写真-2)ホルトノキ街路樹の衰退(写真-3)クスノキ街路樹の枝枯れ

街路樹の衰退

最近、各地の街路樹が異常な樹勢衰退を起こしています。これについては以前にも少し紹介しました(2005年,No.26)が、今回はもう少し詳しく述べてみたいと思います。異常な樹勢衰退とは何でしょうか? 具体的にはクロガネモチが冬はあたかも落葉樹のように葉を落とし(写真-1)、赤い実だけがやたら目立つとか、あるいはホルトノキが次々に枯れる(写真-2)といった事例があります。
今回、紹介するのはこれらのうち、クスノキの枝枯れについてです。クスノキの街路樹でうっそうと茂っている場所もいくつかありますが、ここ20年くらいの間に植栽された並木はひどい状態になっているところが多いようです(写真-3)。それらは樹高が7〜8m、直径が12〜20cmといった大きさの木ですが、何故そのようなことになっているのでしょう?

病気なのに虫がいる!

2003年秋に宮崎市内の緑化関係の業者からクスノキ街路樹の枝がたくさん枯れたと相談がありました。文献を調べた結果、カビの寄生による炭疽病という病気であることが分かりました。それ以後、宮崎市内の街路樹を気をつけて見ていると、そのような枯れはほぼ毎年発生していることに気がつきました。
2005年春、ウォーキングの最中に枝枯れに気づき枯れ枝を眺めていたところ、まだ緑色をした枝(緑枝)にも紫色や黒褐色の丸い点がたくさんあり(写真-4)、緑色との境目付近に小さな虫がいるのを見つけました(写真-5)。枝枯れは黒褐色の点が重なり合って、枝を一周したあとに起こるようでした(写真-6)。虫の大多数は黄色でしたが時々黒い虫も見られ、それぞれ幼虫と成虫であろうと考えられました。以前、文献でクスノキにはクスクダアザミウマという害虫がいて、炭疽病にそっくりの症状を起こすという記述を見たことがありました。枝を持ち帰って虫を調べてみたところ、クスクダアザミウマであることが分かりました。
手元にある樹木病害、樹木害虫の本を開いてみたところ、全く同じ症状でそれぞれ炭疽病、クスクダアザミウマの被害となっていました。数年前からこのことには気づいていたのですが、肝心の虫が見つからなかったことから疑問を抱き続けていました。

犯人は虫?それとも病気?

果たして、この被害は虫の被害か?それとも病気なのか?ということを確かめることにしました。アザミウマを20匹ずつ健全な苗木を入れた袋の中に放しました。すると1週間後にはところどころに黒い斑点ができはじめ、10日後には葉が全部枯れてしまいました。苗木に袋だけかけて虫を入れなかった方でも数枚葉が枯れましたが、虫を入れた方と比べるとごくわずかでした。この枯れた枝からカビを分離してみました。すると苗木に病原菌は散布していないのに炭疸病菌が出てきました。この炭疸病菌はどこから来たのでしょう。虫が病原菌を運んでいるか、あるいはクスノキの中にいたものかどちらかでしょう。実は炭疸病菌は健全なクスノキの組織の中にもいることが分かっています。さらに、アザミウマは吸汁性害虫といって植物の組織から汁を吸っているのですが、汁を吸う時に唾液を植物の中へ注入するそうです。唾液が入った組織は死んでしまいますが、その死んだ部分(吸汁痕といいます)から病気が拡がるということが分かっています。炭疽病の場合も吸汁痕付近で組織の中にいた炭疸病菌が活性化し発病するのではないかと考えていますが、病原菌だけを散布しても発病はしませんでした。

(写真-4)マアザミウマの吸汁痕 (写真-5)吸汁中のクスクダアザミウマ(写真-6)炭疽病の症状

故きを温ねて新しきを知る

(写真-7)クスクダアザミウマの卵・幼虫・蛹・成虫

クスノキ炭疸病についてのもっとも古い文献は100年前の1907年に出ています。この100年前の文献が、放虫試験が終わってから届きました。驚いたことに苗木を用いた放虫試験はすでに100年前に行われており、放虫によってクスノキの枝が枯れると書いてありました。
一般には手に入りにくい文献だったこともあって、その後、虫の研究者は虫の被害、病気の研究者は病気の被害として認識しているのでしょう。病気の図鑑には私も炭疽病について書いていますが、それを書いた当時はアザミウマのことなど知りませんでしたので、その図鑑にはそんなことは一言も書いていません。私はどちらかといえば病気が専門ではあります。

雨が少ないと虫が増える?

枝枯れに最初に気づいたのは2003年7月でした。枝枯れが多数見られた時期は、2003年の夏から秋、翌年の5月と11月、そして2005年の5月です。何故最近になって炭疽病による枝枯れが多くなっているのでしょう。最近になってとはいうものの、各地の神社の大きなクスノキには以前から枯れ枝が目立っていました(写真-8)。これらも枯れる時は緑枝が真っ黒になって枯れるということですので、炭疽病と考えていいでしょう。私たちが気がつかなかっただけかも知れません。2005年には日向市内や熊本市内のクスノキでも枝枯れが発生しました。広い範囲で発生する被害はおおむね気象要因が係わっていることが多いので、宮崎市のここ数年の気象を調べました。
2003年から2005年までの降水量と気温の推移を見てみると、2003年7月に雨が少ない時がありました。2004年は前年の12月〜3月が少雨で5月に枝枯れが、11,12月も少雨で11月に枝枯れが起こりました。11月は平年よりは多かったのですが、直前の10月が平年よりだいぶ多く、11月に急減したための水ストレスではないかと考えています。2005年は1、3、4月が少雨で5月に枝枯れが起こりました。
気象的な異変は樹木の生理状態にさまざまな影響を及ぼします。さらに、雨の量や降り方が虫の発生に大きく影響するのはいかにもありそうな話です。

吸汁性害虫

(写真-8)古木に見られる枝の枯死

そもそもアザミウマとはどんな虫でしょう?
樹木害虫としてはそれほど重要ではありませんが、農業では重要な害虫で色々な農作物で大きな被害を及ぼしています。小さな虫で(成虫で1.5〜2ミリメートル)増殖も早く、年に何度も発生します。農作物の被害は汁を吸われることで成長が衰えたり、はなはだしい場合は枯れることもあります。しかし、林業ではほとんど問題になることはありませんでした。わずかにこのクスクダアザミウマが知られていただけです。

問題はまだある!

(写真-9)地表付近に伸長したクスノキの根

街路樹は重機で転圧した場所に小さな植え穴を掘って植えられることが多いようです。異常を起こしている街路樹の根元を見ると、土の表面に小さな根がびっしりと張っているのが見られることがあります。これは土が硬くて地中に酸素が少ないことを現しているのだそうです。酸素が欲しくて地表近くに根を張っているのです。おそらく水分も少ないのでしょう。掘ってみると硬く締まった土で、根の量も少ないようです。よく根が舗装を持ち上げているのを見ることがありますが、これも地表近くに根をはる結果です。この対策としては植え穴を大きくして土壌改良をする必要がありますが、1本1本土壌改良するのも大変でしょう。

まだまだ問題はある(過剰な剪定)

(写真-10)クスノキの激しい剪定

街路樹が最近おかしくなっている原因のひとつとして、毎年激しい剪定をするということがあります。繁った葉っぱをおそらく数十分の一ではないでしょうか。ほとんど丸坊主に近い剪 定を毎年やるのです(写真-10)。これでは木もたまったものではありません。秋になってやっと葉が出そろったと思ったとたんにほとんど切られて、春はまた一からやり直しということを繰り返さねばなりません。剪定後の樹勢のデータがあるわけではありませんが、各地の街路樹の衰退は土壌や不適切な剪定に起因すると考えて間違いないでしょう。これら衰退している樹種としてはクスノキ、ヤマモモ、ホルトノキ等々で、他にもあまり強度の剪定をしないサクラ類、ハナミズキなども土壌条件からの衰退が顕著なところが多数あります。皆さんも自分の周りの街路樹を一度見回してみてください。

何故クスノキの枝は枯れたか?

(写真-11)クスノキの自然樹形

以上の調査結果から、クスノキ街路樹の枝枯れは土壌条件が良くないために、クスノキの元気がなかった(樹勢衰退の状態)ところへ、追い打ちをかけるように雨が少なく衰退を加速したのでしょう。一方、乾燥状態が続いたことでクスクダアザミウマが大発生し吸汁したため、クスノキの樹体内にいた炭疸病菌が活性化して病気が発生し、枝枯れを起こしたものと考えています。虫や病気ならば薬剤と考えられるかも知れませんが、それはその場しのぎの方法でしかありません。やはり、ここは思い切って土壌改良を行いクスノキの樹勢を盛り返してやる必要があります。

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