
樹齢が数百年にもおよぶスギは長年生き延びるための遺伝的特性を持っていると考えられ、長伐期に適したスギ品種を選ぶ時の参考になります。さらに、その巨樹が神社や寺などにある場合は、植栽された時期や経緯が伝えられていることも多く、本県の林業史を解くための重要な情報といえます。もし、このような貴重なスギが惜しくも台風で倒れたり、やむをえない事情で伐採されることになった場合、林業技術センターでは、早急に品種の調査と遺伝資源の保存を行っています。
県内には、いろいろなスギ品種が植栽されていますが、これらはさし木で増殖されたものがほとんどです。しかし、これらの品種の中には同名異品種あるいは異名同品種があるといわれています。その要因として、スギの個体識別が外見からでは困難だったことや情報網の発達していない数百年前からさし木品種が広まったことなどが考えられます。
一方、近年のDNA分析技術の発達により、スギでも正確な個体識別が可能となりました。現在、この技術で得られたデータから品種整理を進めており、品種の原点を探るためには、スギの巨樹・古木は重要な材料となっています。
これまで分析したスギ巨樹のうち、推定樹齢150年以上のサンプルは表-1のとおりです。
諸塚村のサンプルは、諸塚村林業研究グループが取り組んでいる優良スギの選定において、まずは村内に昔から生育しているスギ品種を把握する必要が生じたために、当グループから材料が提供されたものです(写真-1)。
美郷町南郷区の水清谷神社のサンプルは、平成16年9月7日、「勝ち戦の神様」としてあがめられていたスギが台風18号の暴風で倒れたため、穂木を採取しました(写真-2)。
南郷町の榎原神社のスギは、神社建立時に植栽された「創建の飫肥杉」として伝えられ、約330年間育ってきましたが、平成18年4月21日、樹勢衰退により伐採されることになったことから、穂木を採取することになりました(写真-3)。
| 調査対象名 | 所在地 | 推定樹齢(年) | 樹高 | 胸高周囲 | 個本数(本) |
| 矢村神社 | 諸塚村大字七ツ山 矢村 | 600 | 25 | 7.3 | 1 |
| 桂神社 | 諸塚村大字七ツ山 松原 | 150 | 20 | 3.5 | 2 |
| 金鶏寺 | 諸塚村大字家代 上の尾 | 400 | 35 | 4.9 | 3 |
| 塚原神社 | 諸塚村大字家代 塚原 | 230 | 26 | 3.9 | 4 |
| 鳥越のスギ | 諸塚村大字家代 川の口 | 200 | 16 | 3.3 | 1 |
| 住吉切のスギ | 諸塚村大字家代 川の口 | 150 | 30 | 3.8 | 1 |
| 水清谷神社 | 美郷町南郷区水清谷 | 400 | 35 | 4.0 | 3 |
| 榎原神社 | 南郷町大字榎原 | 330 | 25 | 4.0 | 1 |
諸塚村のスギ(写真-4、レーンNo1〜12)と水清谷神社のスギ(写真-4、レーンNo13〜15)は、既に品種名が確認されているメアサのバンドパターン(写真-4、レーンNo17)と一致し、品種名はメアサであることが分かりました。メアサは九州地方で最も古くからさし木繁殖された品種といわれており、神社や寺などのご神木として広まったようです。文献でメアサが確認されているのは、高千穂町の高千穂神社や天岩戸神社、高原町の狭野神社、県外では宮園神社(大分県)、国造神社(熊本県)、霧島神宮(鹿児島県)などがあります(図-1)。このことは、元は1本の親木から、数百年という長い年月を経て九州各地に広まったものと考えられます。
榎原神社のスギ(写真-4、レーンNo16)は、飫肥杉品種の一つであるマアカのバンドパターン(写真-4、レーンNo18)と一致し、品種名はマアカと鑑定しました。飫肥林業は代々飫肥杉のさし木増殖によって発展してきましたが、それらの親木がいつから存在していたかは解明されていませんでした。「創建の飫肥杉」が植栽されたのは、飫肥地方でさし木増殖が始まった頃であることから、現在も広く植えられているマアカの元祖である可能性が高いと考えられ、飫肥杉品種の成り立ちを知る手掛かりとなると思われます。
県内には、多くの貴重なスギ巨樹がありますが、遺伝資源保存は台風で倒壊するなど緊急性が高いと思われるものを優先的に取組んでいます。
平成16年9月13日、当センターのガラス温室内でさし木を行いました。その後、実に約400年ぶりのさし木増殖となる発根がみられ、現在は苗木を野外で育成しており、今年3月には神社へ里帰りさせる予定です(写真-5)。
平成18年4月24日にさし木を行いました。新芽の成長が見られ、さし木作業の適期としてはやや過ぎていましたが、ミスト装置(噴霧散水装置)のある温室で大事に生育させたところ、根を発生させることができました。今年の春から野外で育成し、平成20年春には神社へ里帰りさせる計画です(写真-6)。
神社や寺などに里帰りするスギ苗木は、これまで地元の人々に親しまれてきたスギと全く同じ遺伝子を受け継いだ2代目となりますので、今後、地域の文化財として大切に育てられることでしょう。さらに、神社史や寺史として正確な植栽時の記録が残ることから、遺伝資源を数百年後の未来に伝える「生きたタイムカプセル」になるのではと思っています。

