
優良な苗木を提供して行くため、成長・材質に優れたスギ、病気に強いクロマツなどのクローン選抜が進められていますが、同時に取り扱うクローンの系統や特性などについて、遺伝的に把握しておくことは非常に重要です。遺伝子に着目した技術は、これまでにも酵素を利用したアイソザイムと呼ばれる分析法が用いられています。この手法は正確性は高いものの識別能力には限界がありました。その後、近年のDNA分析技術の進歩により比較的簡便な手法でDNA本体から遺伝的なデータを得ることが可能となり、識別能力も格段に向上しました。林業技術センターでも昨年度から機器の整備と分析を開始しており、次のことに利用しています。
県内でのスギさし木造林は長い歴史があり、オビスギ系さし木品種をはじめとして県外からも多くのさし木品種が導入されてきました。しかし、これら品種の中には同名異品種あるいは異名同品種があるとも言われています。また、これまで選抜しているスギ精英樹についても在来品種との関係が十分に解明されていません。
従来の品種の分類法は形態的特徴(針葉、枝条、幹)や成長特性(成長型、結実性)から判定していました。しかし、この方法は植栽環境や樹齢などの成長状態によっては判定が困難な場合があります(図−1)。これに対してDNA分析技術を用いた場合は、新鮮な葉(約0.1g)が採れれば成長状態に関係なく正確に判定することができます(図−2)。
苗木に求められる特性は成長・材質のほか抵抗性や雄花着花性など多様化してきました。それに伴って取り扱うクローンの数も増大してきています。また、採種穂園の整備、クローンの配布などにより、移植や補植の回数も多くなっています。このことからクローンを正確に管理するには、遺伝的な識別情報をバックアップしておくことが有力な手段と考えられます。たとえば、台風で採穂園の標識札が外れ、境界も判別できなくなった場合でも識別情報を控えていれば正確な復旧が可能となるわけです。
クロマツの苗木がマツクイムシに強い抵抗力を持っているかどうかの検定は、苗木にマツノザイセンチュウを接種する方法で行っており、現段階では枯れずに合格する割合は5〜6割です。これは必ずしも効率的な生産とは言えません。そこで、合格率を向上させるためには合格割合の高い両親(種子親と花粉親)の組合せを特定する必要があります。種子親は種子採取時にチェックすればすぐ分かりますが、問題なのは風で飛んできた花粉の親の特定です。従来は「人工交配→育苗→接種検定」で優れた組合せを解明していましたが、この方法だと結果を得るまで最低4年はかかります。これに対して合格苗を用いたDNA分析を行った場合は、非常に短い期間で結果(延べ平均10サンプル/日)を出すことができ、すぐに採種園改良の計画段階へ移ることができます。
DNA分析技術は十数年前に比べれば簡便になったのは事実です。しかし、林木(特に針葉樹)では多糖類を多く含んでいる影響でDNAが十分に抽出できない場合があることや手際よく作業しないと不必要にDNAが分解されて正確な結果が得られないことなど実際にはそれなりのノウハウが必要な面もあります。今後はこれら難点を克服しながら分析データの蓄積を行い、優良クローンの普及に役立てるほか、将来は苗木段階での材質強度の推定や病気に強い遺伝子の解明など新たな技術開発にも取り組みたいと考えています。
図−1スギの葉(オビスギ系品種の一部)
図−2スギのDNAバンドパターン
針葉の形は生長状態で変化するため正確な識別は困難品種によっては特有のバンドパターンが
検出されるため正確な識別ができる