
本誌No.464(2001年9月号)では、DNA分析技術の林業分野への応用について概略を記載しました。今回はやや具体的な技術と事例について紹介しましょう。
林木の成長や耐病性などの各種特性が親から子へ伝えられることを遺伝といいます。この遺伝を司るのが遺伝子で、その本体はDNAと呼ばれる物質です。DNAはたった4種類の塩基(A:アデニン、T:チミン、C:シトシン、G:グアニン)から構成されており、AとT、CとGそれぞれが対となり(塩基対)、二重らせん構造をつくっています。塩基配列と形質発現との関連性を解明することは容易ではありません。しかし、塩基配列をA、T、C、Gからなる単純なデジタル信号と考え、その信号の長さや内容を比較することが可能となれば、クローンの識別や系統解析などに期待が高まります。
近年、新聞やテレビ等で遺伝子組換え食品、DNA鑑定、遺伝子治療などに関した話題が多くなりました。DNA分析技術が大幅に進歩した要因として、PCR法(ポリメラーゼ連鎖反応)の開発があります。これは、全DNAの中から特定の塩基配列が並ぶ部分だけを繰り返しコピーしながら数億倍に増幅させる技術(図−1)で、この方法を開発したキャリー・マリス(米)はノーベル賞を受賞しています。
図−1「DNA分析の要」 PCR装置
オビスギさし木品種それぞれのクローン構成は単一あるいは複合クローンであると考えられていますが、葉や幹などの形状からクローンを正確に識別することは非常に難しいため、その構成状況は明確に把握されていません。そこで、DNA分析技術を利用して複合クローンの存在を調べてみました。まず、オビスギ展示林の各品種から葉を採取してDNAを抽出します。次にPCR法を利用して特定のDNA部分を断片として増幅、電気泳動によるDNAのバンドパターン(DNA型)からクローン判定を行いました。その結果、オビスギ品種群それぞれについて固有のDNA型を得ることができました。その中でもヒダリマキ、トサアカなどは複数のDNA型が検出され、複合クローンの可能性が認められました(図−2)。また、今回のデータから展示林の品種表示とは別の品種が一部混入していることも判明し、将来はDNAによるクローン管理が重要と思われました。今後はオビスギ品種の中でも造林用として普及しているオビアカ(マアカ)やタノアカ等について、DNAデータの蓄積を図り、苗木品質の均一化に役立てたいと考えています。
図−2トサアカ植栽区域から採取したサンプルの電気泳動写真温度をコントロールしてDNA増殖反応を行うトサアカは個体1〜3,4,6〜10の複数のDNA型で構成。個体5はハングロで、混入して植栽されていることが分かった。