
最近、クローンという言葉をニュースなどでよく耳にすると思います。クローンとは、ある生物個体と全く同じDNAを持った個体の事をいいます。DNAは生物体の設計図に例えられ、同じDNAを持つクローンが同じ環境条件下で育つと、色、形、大きさなど全く同じものになると考えられています。
ところで、私たちの身近にある樹木で、昔からクローンによってその数を増やしていったものがあります。それは、スギです。
九州地方では、スギの穂を畑に挿し付けて育苗する挿し木苗が多く作られています。この育苗法は母樹のDNAが100%受け継がれるため、正真正銘のクローン増殖といえます。
スギはクローン増殖が容易な樹種であるにも関わらず、これまでの林業ではクローンの特長を十分活かされていなかったようです。
もし、スギを同じクローンで揃えて造林すれば、収穫期には均一な材質の木材が揃い、高値で売れるでしょう。木材の人工乾燥に要する時間もばらつきが小さくなると予想され、乾燥コストの低減が可能になります。
また、先日、花粉症対策として、花粉が少ないスギの品種が選定されました。花粉が少ない品種を挿し木でクローン増殖すれば、スギ花粉の減少が進むと期待できます。
一方、クローン苗の問題点は、大面積に同じクローンを植えると気象害や病虫害が広がりやすいという事です。これを防ぐには、一定の面積ごとにクローンを変えて造林するという施業が有効といえるでしょう。
それでは、現在、スギのクローンはどの程度把握されているのでしょうか。
昭和30年代、国と県はスギ等の成長、形質の優れた個体を精英樹として選抜しました。精英樹は、個体ごとに西臼杵1号、東臼杵1号等の名称が付けられ、そのクローンは県内の採穂園や検定林に植栽されています。
また、県内に多くみられるオビスギは、20種近くの在来品種(オビアカ、タノアカ等)に分類されると言われています。在来品種のクローンによる分類や、精英樹と同じクローンの有無などについては、DNA分析により明らかになりつつあります。
クローンを活用した林業を実現するには、普及すべきクローンの絞り込みや、優良クローン苗の供給体制の整備が必要です。現時点では、一般の人がクローン苗を選んで入手する事は難しいので、品種を揃えた植栽でもクローンに近い効果は得られると思います。
林業を取り巻く状況は厳しく、半世紀近く先の収穫を考える余裕はないと言われるかもしれません。しかし、今、先手を打っておく事が、将来のプラスにつながると考えます。