第1章 各地域の地形・地質と風土
6.小林・西諸県地域
小林・えびの両市と野尻・高原の2町及び須木村を含む地域である。宮崎から国道268号線が岩瀬川に沿って一路西へ向かうところ、北側の九州山地と南側の南那珂山地・霧島山地とに挟まれた東西性の凹地帯が50kmにわたって続く。これを埋める始良火砕流は次第にその厚さと高度を増し、小林火砕流と加久藤火砕流を加え、第四紀の激しい火山活動の舞台が迫ってくる。本地域の象徴は霧島火山である。標高1,700mの韓国岳を主峯とし、高千穂峰・新燃岳・夷守岳など23座の尖頭と10の火口湖を数える。その活動の先駆はすでに新第三紀末に起こり、輝石安山岩の活動はこの地域から薩摩半島一帯の地殻を破り、小林カルデラ・加久藤カルデラ及び始良の開口と相前後する噴出によって今日の火山体が形成されて行った。桜島が始良カルデラの一角に生まれた火口丘とするならば、霧島山は加久藤カルデラの南縁に形成された巨大な火口丘群と見ることもできる。このあたりは東西方向の凹地帯と霧島火山帯とが交わることろである。日向灘地震・えびの地震・霧島火山活動。それらの間には何等かの関連があると言われている。有史以来の霧島の活動は御鉢と新燃岳を中心として続けられてきている。記録に残る大噴火として伝えられるものに延暦7年(788年)、文暦元年(1235年)及び享保元年(1716年)〜同2年などの噴火がありわけても享保のものは大きな被害をもたらしたと伝えられる。すなわち、東塵一帯の建物は大多数焼失し、火気は淡々として昼夜絶え間なく、昼なお暗い火山灰のとばりは東諸県地方までも包んだという。
現世の霧島火山帯は温泉と地下水の大きな貯留槽でもある。奇妙なことに南西斜面の鹿児島県側には温泉地熱地帯を、北東斜面の宮崎県側には湧水地帯をめぐらしている。えびの高原を別とすれば、白鳥温泉・地獄は唯一の例外である。斜面を下って京町付近は平地にしては珍しい温泉地帯となっている。ここでは温泉水を含む広義の地下水は典型的な多層構造を呈し、表層の沖積層には普通の循環性地下水、加久藤層群にとって代表されるカルデラ堆積物の上部では水溶性ガスを含む地下水、その下には化石水起源の温泉水が、更にその下の新第三紀安山岩類には火山性温泉水が横たわっている。火山性温泉水からは大量の炭酸ガスが噴出する。第1表はこのような地下水多層構造の1例を示したものである。類似の火山性温泉の周縁相は高原町の血捨ノ木・湯之元・蓮太郎などにも見られる。
第1表 加久藤盆地における層準ごとの地下水(温泉水)の特徴
岩層層準 | 井戸深度 (m) |
水温 (℃) |
水質(ppm) | 遊離ガス(vol.%) | ||||
HCO3- | Cl- | SO42- | N2 | CO2 | CH4 | |||
加久藤カルデラ堆積物上部 |
70 | 23.2 | 274.6 | 1.2 | tr. | 17.63 | 1.16 | 80.95 |
加久藤カルデラ堆積物下部 | 315 | 57.2 | 187.9 | 14.2 | 9.6 | 45.79 | 0.48 | 53.87 |
新第三紀安山岩類 | 433 | 64.3 | 2,132 | 715.8 | 1,448 | − | 98.48 | 0.005 |
えびの市から高原町にかけての北麓地帯には数10ヶ所の湧水列が並び、湧出量は毎秒1m3近くに達するものも見られる。水温11度〜18度。飲用・権漑のほか養魚場としての利用も盛んである。井ノ山(いでのやま)湧水や千谷(せんだに)湧水はその代表である。この地域にはシラス台地からの湧水も多い。