●日向的な風景と民情
どこまでも青く澄み渡った空、なだらかな山稜(さんりょう)、眠気を誘われるような南国の日差し、それに人のよさ丸出しの男性と、働き者の女性。そんないかにも日向的な風景と、民情を織り込んだ新民謡が、「いもがらぼくと」である。
腰の痛さよ山畑開き 春はかすみの日の永さ 焼酎五合の寝酒の酌に おれも嫁女が
欲しゅなった ヤレ もろたもろたよ いもがらぼくと 日向かぼちゃのよか嫁女
ジャガジャガマコチ エレコッチャ(以下略)
鞍に菜の花ヒャラヒャラヒャッと 七つ浦から赤毛布 可愛い嫁女はシャンシャン馬よ
今年しゃ田植えもふたり連れ
日向弁によるユーモラスな歌詞と、音頭調の浮き立つような節回しが受けて、宴席や祝いの座に欠かせない唄(うた)として人気を集めている。
「いもがらぼくと」は日向の男性の代名詞で、里芋の茎で作った木刀のこと。見掛けは頼もしく立派だが、中は空洞でたたいても痛くないという、お人よしの人柄を指している。いっぽうの「日向かぼちゃ」は名産のカボチャを指し、ちょっと見には色が黒くて、小ぶりで派手さはないが、その実おいしさは最高、しかも芯(しん)のしっかりしている働き者。そんな日向乙女を例えている。どちらもうがっていて面白い。
この男女が所帯を持つ物語を中心に、四季それぞれの農作業や行事をからませ、ユーモラスに描いた唄暦である。
この唄が誕生したのは1954(昭和29)年。宮崎市制30周年を記念して、市が新しいイメージソングをと、公募によって歌詞を募集し、全国から多数の作品が寄せられた。その中の優秀作が「いもがらぼくと」である。もっとも原曲名は「のさん節」。作詞者は作家の黒木淳吉。
ただしレコード吹き込みの際、のさんではいささか消極的、また日向弁ばかりでは全国展開が難しいと、作家の中村地平と詩人の黒木清次が筆を加え、現在の形にまとめられた。
こうして誕生した「いもがらぼくと」は、同年秋に宮崎市で開催された「南国博覧会」で発表され、人気を独占する。それに陽気でコミカルな振り付けが加わり、今や県内外で歌い踊られている。黒潮光る宮崎平野にふさわしい、楽しい新民謡である。
原田 解
ビクターでの吹き込みでは、民謡歌手の鈴木正夫(初代)と野崎整子が歌い、唄の風土と主人公のキャラクターをうまく表現している。また市制60周年記念として、「のさん節」を高橋政秋が作曲し、これまた楽しいローカル・ソングとして愛唱されている。
南国博のPRソングとして
人気を呼ぶ
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