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宮崎県感染症情報センター

宮崎県感染症発生動向調査2010年第24号(医療機関向け情報)

第12巻第24号[宮崎県第24週(6/14〜6/20)、全国第23週(6/7〜6/13)]

宮崎県感染症週報

宮崎県感染症情報センター
宮崎県健康増進課
宮崎県衛生環境研究所

宮崎県第24週の発生動向

定点医療機関からの報告総数は1,065人(定点あたり31.5)で、前週比103%と横ばいであった。

前週に比べ増加した主な疾患は流行性耳下腺炎とヘルパンギーナで、減少した主な疾患はA群溶血性レンサ球菌咽頭炎と水痘であった。

ヘルパンギーナの報告数は153人(4.3)で前週比107%と増加した。例年同時期の定点あたり平均値(3.0)と比較すると約1.4倍である。中央(7.0)、小林(6.3)、延岡(6.0)保健所からの報告が多く警報レベルを超えている。年齢別では1歳から3歳で全体の約7割を占めた。

流行性耳下腺炎の報告数は117人(3.3)で前週比138%と増加した。例年同時期の定点あたり平均値(1.7)と比較すると約1.9倍である。日向(18.3)保健所からの報告が多く警報レベルを超えている。年齢別では2歳から6歳で全体の約8割を占めた。

細菌性髄膜炎1人が宮崎市保健所から報告された。患者は0歳の女児。

無菌性髄膜炎1人が日南保健所から報告された。患者は5歳の男児。

保健所別流行警報開始基準値超過疾患

全数把握対象疾患

  • 1類感染症
    報告なし。
  • 2類感染症
    結核7例が宮崎市(4例)、高鍋・日向・中央(各1例)保健所から報告された。
    《宮崎市保健所》
    • 60歳代の女性で無症状病原体保有者。
    • 60歳代の女性で無症状病原体保有者。
    • 40歳代の男性で腸結核疑い。軟便がみられた。
    • 90歳代の男性で肺結核。発熱がみられた。
    《高鍋保健所》
    70歳代の男性でリンパ節結核。頚部リンパ節腫脹がみられた。
    《日向保健所》
    40歳代の女性で無症状病原体保有者。
    《中央保健所》
    70歳代の男性で肺結核。咳、痰がみられた。
  • 3類感染症
    腸管出血性大腸菌感染症3例が小林(2例)、延岡(1例)保健所から報告された。
    《延岡保健所》
    2歳の男児で腹痛、水様性下痢、血便がみられた。原因菌の血清型はO157(VT2産生)。
    《小林保健所》
    • 30歳代の女性で無症状病原体保有者。原因菌の血清型はO26(VT1産生)。
    • 10歳代の女子で無症状病原体保有者。原因菌の血清型はO26(VT1産生)。
  • 4類感染症
    報告なし。
  • 5類感染症
    報告なし。

病原体情報(衛生環境研究所 微生物部)

細菌(第23〜24週:平成22年6月9日〜6月20日までに分離同定)

ウイルス(第23〜24週:平成22年6月9日〜6月20日までに分離同定)

  • 胃腸炎の小児からアデノウイルス3型が分離された。
  • ウイルス性感染症の乳幼児からエコーウイルス25型が検出された。2007年の発疹性疾患で検出されて以来、3年ぶりの検出となった。全国でも2008年以降ほとんど検出されていない。
  • 県内でも手足口病が多発しているが、現在のところ手足口病からはエンテロウイルス71型が検出されている。

全国第23週の発生動向

定点医療機関あたりの患者報告総数は18.6で、前週比101%とほぼ横ばいであった。今週増加した主な疾患は水痘とヘルパンギーナで、減少した主な疾患は手足口病であった。

水痘の報告数は8,838 人(2.9)で、前週比147%と増加した。新潟県(5.6)、福井県(5.2)、佐賀県(4.3)からの報告が多く、年齢別では1歳から5歳で約8割を占めた。

ヘルパンギーナの報告数は3,538人(1.2)で、前週比121%と増加した。宮崎県(4.0)、徳島県(3.1)、秋田県(2.6)からの報告が多く、年齢別では1歳から4歳で全体の約8割を占めた。

全数把握対象疾患
  • 1類感染症
    報告なし。
  • 2類感染症
    結核307例
  • 3類感染症
    細菌性赤痢4例、腸管出血性大腸菌感染症174例、腸チフス1例
  • 4類感染症
    A型肝炎2例、つつが虫病8例、デング熱1例、日本紅斑熱2例、レジオネラ症10例、レプトスピラ症1例
  • 5類感染症
    アメーバ赤痢9例、ウイルス性肝炎2例、急性脳炎1例、クリプトスポリジウム症1例、クロイツフェルト・ヤコブ病6例、劇症型溶血性レンサ球菌感染症4例、後天性免疫不全症候群23例、ジアルジア症1例、梅毒8例、破傷風1例、バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例、風しん2例、麻しん11例

流行期を間近に控えた「百日咳」

百日咳は百日咳菌の気道感染による小児の急性呼吸器感染症で1歳未満特に6ヶ月未満の乳児では重篤化することがある。患者の上気道分泌物が直接に又は飛沫を介して伝播する。本症は麻疹と並んで高い伝染性を有し、ワクチンの接種制度開始以前には全国で毎年10万人程度の患者が発生しその内1割程度は死亡していたと言われる。現在でも世界的に小児に、発展途上国を中心に2〜4千万人の患者と20〜40万人の死者があると言われているが、近年我が国ではワクチンなどの効果で患者数は年間1500から3000程度で推移していた。しかしながら近年患者数が全国的に増加し(図1)、その中でも20歳以上の患者割合が増えている(図2)。また、本症の流行期は夏場と言われているので注意喚起の意味で百日咳に関する一般的な事柄と最近の特異な傾向について、主に国立感染症研究所の感染症発生動向調査事業の記事を基に述べてみる。

臨床経過
  • 7〜10日の潜伏期
  • カタル期(約2週間)
    カゼ症状で発症、次第に咳が増悪。
  • 痙咳期(2〜3週間)
    • 短い咳の連続(スタッカート)
    • 特有の笛声(ヒュー)の繰り返し(レプリーゼ)
    • 夜間に症状が強く屡々嘔吐、無呼吸発作を伴う
    • 発熱は比較的弱い
    • 随伴疾患として肺炎、脳炎がある
    • 検査所見としては小児では白血球が増加し、赤沈CRPは変化が弱い
  • 回復期(2〜3週)
診断
  • 診断基準
    1. 2週間以上持続する咳嗽
    2. スタッカート、レプリーゼ
      新生児・乳児では他に原因のない咳嗽後の嘔吐または無呼吸発作
      (以上の1. 2.を満たすこと、2.においてはどちらかの項目、又は医師の診断)
  • 病原体分離
    菌はカタル期から3週間ほど排出されるが痙咳期には減少するので実際には分離は可成り難しく、特に抗生剤の投与例では非常に困難である。
  • 抗体検出
    抗FHA, ELISA(抗FHA, 抗PT)
    (現在宮崎県衛生環境研究所では菌の分離及びLAMP法による遺伝子解析が可能であり、患者抗体検査は各検査室での市販キットによる検査をお願いしている。)
治療

マクロライド系(エリスロマイシン、クラリスロマイシン等)をカタル期での使用が有効である。菌排出は抗生剤投与で5日位で陰性化するが2週間ほどの投与が望ましい。抗PT作用を期待してガンマグロブリンの投与が時に行われる。予防法としてはワクチン投与が一番である。

我が国での百日咳ワクチン制度の状況及び本症の最近の問題点)

950年から単味ワクチンで出発。1958年、DP, D。68年にDPT。71年には年間206例の患者数で世界一の低発生国になる。75年に副作用の問題からPを含むワクチンの接種が中止された(79年には患者数13,000,死者数20〜30名となった)。81年、無細胞P(aP)が開発されDTaPの三種混合ワクチンになった。同時に定点疾患となり、患者数は当時2万3千人程度(定点当たり12.6)が示されている。それ以来本症の流行状況は4年毎のピークを持ちながら次第に減少していった。

その後、94年にDPTの開始時期が2歳から3ヶ月齢に変更され、99年感染症法の改正で小児科定点(全国3千か所)から報告されるようになった。そして2000、02年には患者数は3783(1.29), 1488(0.49)で、07年までは定点当たり1.00以下を続けていた。

ところで、米国では1980年代の後半に、ワクチン効果が現弱すると思われる(ワクチン効果の持続は5〜10年と言われる)思春期の世代に本症が多発し04年にはこの世代で27%を占めた。一方我が国では07年四国の2つの大学で学生、職員間に、また、青森県の消防署でも職員間に本症の流行が見られた。そのような中、今年の流行状況では19週までに患者数がここ10年間で2番目に高く、図2. に示すように20歳以上が半数以上を占めている。

そこで問題点として、小児科定点で疾患を発見する我が国の制度の中での思春期、成人の捕捉、と、免疫力の衰えている同世代へのワクチン投与、が挙げられる。成人は臨床的症状が一般に乏しく、患者として捕捉しにくく、咳は長期にわたり、感染源として特に乳児などに負の形で振る舞うことが予想される。患者捕捉定点の拡大、思春期世代へのワクチン追加接種や同世代への効果的なワクチンの開発等解決する必要がある。

なお、感染研では発生動向調査とは別に本症に対してのデータベースを構築して専門家、国民に情報を提供すると共に医療機関などへ本症把握の協力を要請している。

http://idsc.nih.go.jp/disease/perutusis/pertu-db.html/

平成22年6月23日
宮崎県衛生環境研究所

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