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三種混合(DPT)ワクチンを受けていますか?

みなさんは三種混合(DPT)ワクチンを受けていますか?

三種というのは、ジフテリア、百日咳、破傷風という三種類の病気を指しています。

最初に、これらの病気のことを少し説明しましょう。

ジフテリア
  • 原因菌
    ジフテリア菌
  • 感染経路
    患者や菌を持った人と接触したり、そのくしゃみを浴びることでうつります。
  • 潜伏期間
    1〜7日
  • 発症
    ジフテリア菌は鼻、喉頭、気管など侵入した場所で増え、その場所により、鼻ジフテリア、咽頭ジフテリア、喉頭ジフテリアと呼ばれる病気を起こします。さらにジフテリア菌が作り出す毒素で体の中の組織を傷つけることもあります。
  • 症状
    最も多い咽頭ジフテリアの場合、38〜39度の発熱、のどの痛みなどが起こり、1日くらいたつと、のどに偽膜と呼ばれる特徴的な膜を作ります。ひどくなると、呼吸困難となり窒息することもあります。さらに毒素が全身に広がると、体のあちこちの神経が麻痺したり、時には心臓の筋肉がおかされ心臓麻痺を起こしたりします。
百日咳
  • 原因菌
    百日咳菌
  • 感染経路
    患者のくしゃみや咳によって感染します。
  • 潜伏期間
    7〜10日
  • 発症
    菌は呼吸器の粘膜で増え、そのときに作られた様々な因子により発症します。
  • 症状
    名前が示すように、激しい咳の発作が1〜3ヶ月も続きます。特に乳幼児では重症になりやすく、肺炎や脳症を引き起こすこともあります。
破傷風
  • 原因菌
    破傷風菌
  • 感染経路
    菌に汚染された土などが傷口に入って感染します。
  • 潜伏期間
    数日〜2週間
  • 発症
    この菌は、酸素のないところでしか発育できない嫌気性菌という菌の仲間で、ふだんは熱や乾燥に強い状態(芽胞といいます)で土の中にいます。この芽胞が傷口などから入って増えると、破傷風毒素を作ります。この毒素は、これまで知られている中で、最も強力な毒素の一つです。
  • 症状
    破傷風毒素は全身の筋肉に作用し、口が開かなくなったり、ものを飲み込むのが難しくなったり、さらには呼吸が困難になるなどの症状を引き起こします。治療が遅れると、死亡率が非常に高くなります。

次に、これら3種類の病気に対する抵抗力(抗体)についてお話しましょう。

平成15年度、厚生労働省の感染症流行予測調査事業の一つとして、宮崎県衛生環境研究所では、「県民の皆さんに、ジフテリア、破傷風、および百日咳に対する抵抗力がどのくらいあるのだろう」という調査をしました。この調査結果について説明します。

抵抗力は、抗体価(人体が毒素などに対抗する力)というもので測りますが、一定以上の抗体価を持っている場合を抗体陽性といいます。

ジフテリア
  • ジフテリアに対する抗体価を測定し、各年齢層の抗体陽性率を図1に示しました。
  • 0〜19歳では抵抗力を持つ人が多く、これはワクチン接種の効果と考えられました。
  • 心配なのは、30歳以上の人の抗体陽性率が徐々に低下していることです。国内では少なくなったとはいえ、国外には多い場所もありますので、海外へ行く場合には注意する必要があります。
  • 日本でジフテリアの定期予防接種が開始されたのは1948年からですので、現在50歳前後以上の人はワクチンを受けていない可能性があります。
百日咳
  • 百日咳については、菌が持っているFHA(百日咳菌の表面に存在する蛋白質)およびPT(百日咳の毒素)という2種類の物質に対する抗体価を測定しました。図2は、各年齢層での抗体陽性率を示しています。
  • FHAに対する抵抗力は、各年齢層で、59〜88%のヒトが持っていました。
  • PTに対する抵抗力は、30〜39歳のみ24%と低い陽性率でしたが、他の年齢層では48〜76%でした。30歳代の陽性率が低い理由ははっきりしませんが、ワクチン接種後の死亡事故のため、1975年から数年間、接種率が10%近くまで低下したことがあるので、このことと関連があるのかどうか疑われるところです。
破傷風
  • 破傷風に対する抗体価を測定し、各年齢層の抗体陽性率を図3に示しました。
  • 0〜39歳までは、80〜100%の人が抵抗力を持っており、これらの年齢層のワクチン接種の効果が良好だと思われます。
  • 40歳以上では、抵抗力を持つ人が10%と非常に少ないことがわかります。これは、破傷風の予防接種が、三種混合ワクチンとして1968年から開始されたので、予防接種を受ける機会がなかったためと考えられます。
  • 国内での破傷風患者の発生は、最近では年間数十例で、宮崎県内では、平成12年〜16年9月の間に、11名の患者さんの報告がありました。少ないとは言え、感染する可能性がないとは言えません。
  • 1999〜2001年に報告された破傷風患者さんの95%は35歳以上でした。この年齢層で、特に野外でケガをする可能性の高い人は、予防接種を受けたほうがよいでしょう。また、ケガをしたとき発症しないように、抗破傷風ヒト免疫グロブリンとトキソイドワクチンを接種することがありますが、この場合も基礎免疫ができていれば、ワクチンによる抗体価上昇によって発症予防が期待できます。40歳代以上の方々では、基礎免疫が完了していないことが考えられますので、前もって基礎免疫の接種を受けておくとよいでしょう。

最後に、ひとこと。

1949年からジフテリア、1958年からジフテリアと百日咳の二種混合、1968年から破傷風を加えた三種混合ワクチンが開始されて以来、継続して、三種混合ワクチンが接種されてきました。その間、百日咳成分によるワクチン接種後の死亡事故が契機となり1975年に3ヶ月間ワクチン接種が中止され、その後1981年に改良ワクチンが開始されるまで接種率が10%近くまで低下した期間がありました。その期間中、全国的に百日咳患者が著しく増加しました。改良ワクチン接種が再開され、接種率が上がってくると、再び百日咳患者は減少していきましたが、このことからも、これらの疾患が現在少なくなったのは、予防接種によるところが大きいと考えられます。

また、昨年の調査で予防接種歴のアンケートの回答の中に、30代の女性から、「自分の母子手帳を見る機会を得て、親のありがたさを再確認しました。」というコメントをいただきました。予防接種のほとんどが、現在、任意接種になっています。たくさんの予防接種を確実にこなしていくためには、両親の努力が不可欠です。このような1つ1つの努力が感染症から子供たち、さらに大人をも守ることになるのだと思っています。


宮崎県衛生環境研究所
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