第3章 自然景観と地質

  太陽と水と緑。それらは多種・多様な岩石・地層と一体となって、多彩な自然景観を各所に創造した。それは天与の遺産であり、また損益計算書には表れない環境資源の一つでもある。

第7表 自然公園の地形と地質

公 園 名 地形・地質の特徴
霧島屋久国立公園 コニーデ型の秀麗な成層火山やホマーデ型の大口径の爆裂火口が群立し、空中から眺める光景は月面のクレータ群を思わせる。爆裂火口の一部は火口湖となり、山水の美を湛え、野鳥を誘う。中腹や山麓には温泉・地獄を配し、また勇水群が並ぶ。登るにつれて暖帯から温帯へと移り変わる植物景観は錦上花を添える。
祖母傾国定公園 祖母・傾連山は中・古生層の上に新第三期火山岩類が噴出したもの。険阻な地形と原生林によって特徴づけられている。五葉岳はチャートや石灰岩の作る岩稜である。大崩山一帯は花崗岩。その節理に沿う白肌の侵食形は奇勝を呈し、祝子川渓谷の新緑と紅葉に映える。行縢山の岩壁は花崗斑岩の環状岩脈である。高千穂峡と岩戸峡は阿蘇火砕流の溶結凝灰岩を垂直に刻んだ峡谷である。この公園地域は岩と水の彫刻美術館と言える。
日豊海岸国定公園 南北浦海岸は四万十累群下部の白亜系が作る岩石海岸。山脚は岬、谷は湾となり、小刻みな砂浜を抱くリヤス式海岸である。北浦湾・島野湾一帯には亜熱帯の植物と海中景観が見られる。日向・門川海岸は尾鈴山酸性岩類が主役で、柱状節理の海岸と白砂青松のアークが見事なコントラストを描く。
日南海岸国定公園 青島から鵜戸南方に至る間は、新第三系宮崎層群のリズミカルな砂岩泥岩互層が波に洗われた、縞模様のは波食台と亜熱帯植物群落が南国情緒を漂わせる。油津から一市湾までは、宮崎層群の砂岩や基底礫岩と古第三系の日南層群砂岩貢岩織りなして、屈曲に富んだ海岸線と島嶼群を作っている。南郷海岸と大島との間は海中公園。築島はビロウ樹に覆われ、対岸にはバナナが実る。市木から都井岬・志布志湾岸に至る間は、日南層群の岩と波濤の層克を示す荒々しい海崖と砂浜が交差する。幸島・鳥島・都井岬などは整然とした砂岩が波食を防いでいる姿。幸島の照葉樹林は野生猿の楽園。都井岬は、蘇鉄の自生林と野生馬で知られる。
九州中央山地
国定公園
祖母・傾の連山に相対する九州山地の一角に、白岩山から市房山に連なる1,700m級の稜線が熊本県境にスカイラインを描き、深山を幽谷を秘める。チャート・石灰岩・花崗岩などが作る地形である。高度や岩種に対応して展開するであろう植生分布が楽しみである。
祖母傾県立公園 祖母傾国定公園とほぼ同様であるが、日之影川や綱瀬川の渓谷が加わる。花崗岩体や環状岩脈、チャートや石灰岩を刻む侵食形が見ものである。
尾鈴県立公園 尾鈴山酸性岩体の断面を覗かせる峡谷と自然林が見もの。わけても名貫川上流に大小幾段にも連なる瀑布群は圧巻である。
わにつか県立公園 鰐塚山頂付近は日南層群の砂岩優勢互曹が作る急斜面に囲まれ、360度の展望は南那珂山地随一。清幹の滝は厚い砂岩に懸かる。かつて駆け廻っていた野生の猿の消息を訪ねるのも一興か。鵜戸山塊の奥地、加江田渓谷や猪八重渓谷は、宮崎層群の基底砂礫岩が刻まれた侵食形である。永田峡は姶良火砕流の溶結凝灰岩を刻む峡谷で、高千穂峡と類似のものである。
母智丘・関之尾県立公園 母智丘は新第三紀安山岩がシラス台地の上に頭だけを残した丘。関之尾滝は溶結凝灰岩に懸けられた滝。欧穴群は同じ岩石の渓床に刻まれた侵食形である。

1.山 地

  山地は従来、林産資源・鉱山資源・水力資源等を除いては、総じて生産性の低い地域であり、開発と生活を阻む厄介者として取り扱われる傾向があった。しかし今日では、水資源涵養地帯として、清浄な大気の供給地として、また自然生態系が維持されることによる物心両面の調和ある豊かさの源泉として、環境資源の立場から最も重要視される場所となりつつある。山地をして最も価値あらしめているのは自然林とくに原生林である。それは多様な植物群落を形成し、それに伴って多様な動物群の共存が許される。県内において原生林の状態が比較的まとまって維持されているのは、祖母・傾連山や大崩山地・尾鈴山地それに霧島山地などの地域である。それらは何れも火成岩地帯で、山地の生成と岩質に起因する峻険な地形が千古の斧を阻んできたという必然的な理由で原始に近い状態が残留し、その結果として国立公園・国定公園・県立公園などの自然公園地域の対象となったといった方が適切かも知れない。


傾山の岸壁と急斜面に残る原生林