第3章 自然景観と地質
高千穂峡は阿蘇火砕流堆積物が垂直に刻み込まれたもので、これに続く回廊状の峡谷は日之影付近まで及んでいる。九州山地にあって峡谷美を見せるものには、以上のほかに四万累層群中の玄武岩溶岩がある。九州山地の各河川がそれを横断するところには、大抵狭隘部があると見て差支えない。南郷村の鬼神野美石群や西郷村の大斗の滝などはその一部に過ぎない。石灰岩は地下水の浸食作用によって鍾乳洞が形成されたものである。
姶良火砕流に懸かる関之尾の滝
南那珂山地や霧島山周辺では、姶良火砕流や加久藤火砕流に伴う峡谷と瀑布がよく知られている。都城付近の関之尾滝や永田峡はその代表的なものであり、青井岳渓谷・安楽川渓谷・赤池渓谷などとともに姶良火砕流堆積物を穿つところに形成されたものである。また、小林市における浜之瀬渓谷・三之宮峡、そして須木村にかけての峡谷や奇岩・奇石は加久藤火砕流の侵食形である。
冬のえびの高原と韓国岳(左手の蒸気は硫黄山)
霧島は何と言っても、その火山特有の地形とダイナミックなマグマの胎動とが人々の興をそそる。その全貌を三代峠の一つ矢岳峠から眺めるとき、朝まだき盆底を閉ざす霧海と、焼け天に輝く円錐頂の一群はまさしく霧島の名にふさわしい。マグマ活動の先端は、海老野・白鳥などの噴気、硫黄山の硫気、断燃岳の噴煙、そして周囲の温泉地熱として生き続けている。
御池野鳥の森と高千穂峯
霧島山はまた植物の宝庫でもある。暖帯照葉樹林帯から針葉樹林帯をへて落葉広葉樹林帯に至るまで、登るにつれてそれらが層をなして移り変わる。標高1,300m以上の山頂部ではウツギ・ハンノキ・ミヤマキリシマなどの潅木帯から草原帯となる。わけてもノカイドウとミヤマキリシマは霧島の名花であり、5月から6月にかけて清楚な山肌を紅に染める景観は霧島ならでは味わえない。霧島山の静的側面として山紫水明の美があることは余り知られていない。その東麓、高千穂峰を眼前に仰ぐ御池は、水鳥を中心とする野鳥の楽園であり、静寂が保たれている。水の青さと樹々の緑と紅。そして高千穂野スロープに見せる生々しい爆裂の岩肌は見事な色彩の調和を描いている。