地 滑 り

  本県では特に大規模なものは知られていないが、中・小規模のものは九州山地から南那珂山地に至るまで各地に分布している。第6表にその主なものを示す。これらの地滑り地の大部分は泥岩・泥岩優勢互層・頁岩・粘板岩・千枚岩など、細流物質に富む地帯に分布しており、特に塩基性凝灰質岩に関連する頻度が大きいことが注目される。更に危険予想箇所として、九州山地にあっては、椎葉村の不土野・桑弓野、北方町の猿渡、北郷村の宇納間中崎、南郷村の弓弦葉、東郷町の坪谷川沿いのなどが挙げられているが、これらも頁岩・粘板岩・千枚岩などの地帯であり、特に猿渡・中崎は荒平と同じ地層上、弓弦葉は尾崎と同じ地層上にそれぞれ位置している。一方、南那珂山地にあっては、井倉川・別府田野川沿岸の倉谷及び持田地区は西平と同じ地層によって構成されており、広渡川沿岸の広河原は黒山に隣接した泥質岩地帯にあり、これにも塩基性岩に伴う赤色凝灰質頁岩が含まれている。

第6表 宮崎県における主な地滑り地

場 所 基 盤 岩 層
椎葉村 尾崎 九州山地四万十累層群の千枚岩
北方町 荒平 九州山地四万十累層群の千枚岩(塩基性凝灰岩を含む)
田野町 西平 九州山地四万十累層群の千枚岩(塩基性凝灰岩を含む)
北郷町 黒山 南那珂山地四万十累層群の頁岩優勢互層
日南市 秋山 南那珂山地四万十累層群の頁岩砂岩互層
南郷町 外之浦 南那珂山地四万十累層群の砂岩頁岩互層
串間市 築島 四万十累層群 頁岩
国富町 馬場 宮崎層群 泥岩
国富町 市之野 宮崎層群 泥岩

  これらは何れも人家や道路その他の公共施設、及び農地などに大きな被害を与え、若しくは与える恐れが大きいものを対象としているが、その他にも、泥質岩や塩基性凝灰質岩地帯には、過去の崩壊や地滑りによって厚い二次堆積物が生じ、異常地形の見られるところは多い。治山・治水の立場から、また将来開発・保全に備える立場から、これらの岩層分布と異常地形は注目される。

  次に現在余り注目されていないが、鵜戸山塊の東斜面には、過去に山塊の一部が層理面に沿って滑り下ったと見られる異常地形が多く認められる。それらは2万5千分の1地形図によっても読みとることができる。半円形の緩斜面や凹地、凹地を挟んで東側に残る独立丘などがそれである。独立丘は地滑り地塊であり、半円形の緩斜面や凹地はその抜け殻である。大規模なものは径2kmにも達する。鵜戸山塊における宮崎層群砂岩泥岩互層は20度前後で東へ傾斜している。東傾斜の地形斜面勾配はほぼこれと一致しており、その限りにおいては安定しているが、下方侵食によって山脚部分の地形勾配が地層勾配よりも急になると、岩体の支持力が失われ、泥岩層上面に沿って滑り下ることになる。これは新第三紀砂岩泥岩互層特有の流れ盤層面滑りで、現在頻発している新潟−北陸地域における地滑りにはこのタイプに属するものが多い。この型の地滑りは波の侵食や道路の開削などによっても起こり、しばしば急速な滑落現象を起こす。その極く小規模なものは道路の法面にも現れる。砂岩小岩塊の滑落現象がそれである。この型の地滑りは突発的な破壊力を伴うので、急性地滑り、あるいは地滑り性崩壊とも言うべきものであろう。

第4図 鵜戸山塊に見られる過去の地滑り地形(地滑り区域と滑落崖の跡を示す)(99,888byte)

鵜戸山塊の海崖に残る地滑り地形(昭和30年撮影)