四万十累層群
宮崎県の北西隅は秩父帯に属するが、他の広大な地域はすべて四万十帯に属する。 秩父帯と四万十帯とは仏像構造線で境される。これは低角度で北に傾く衝上断層で、 九州では北は大分県佐伯の北方から、県内を通って、南は鹿児島県野間岬まで追跡される。
四万十帯に分布する地層や岩石のうち、主体をなすものは白亜紀から第三紀中期に及ぶ 四万十累層群で他はこれを貫入または被覆する新生代の火成岩類及び堆積岩類である。
四万十累層群は砂岩と頁岩を主とし、塩基性火山岩類を伴う厚い地向斜性堆積物からなる。 岩相が単調で、化石に乏しく、地質構造が複雑なために、かつては一括して時代未詳層群と呼ばれていたが、 最近では層序や地質構造の大勢が次第に明らかになってきた。なお、日南層群(首藤,1963) そとの北の“四万十層群”とを別の層群として区分する傾向もあるが、両者の間に岩相的・時代的な相違はなく、 両者の境界も判然としないので、本文では日南層群を四万十累層群の中に含めて扱う。
四万十累層群は白亜系からなる下部と、古第三系ー下部中新統からなる上部とに大別される。 下部と上部とは低角度で北に傾く衝上断層ー延岡衝上ーで境される(第5図)。 下部と上部とを砂岩組成の上から比較すると、前者の砂岩は後者の砂岩よりも概して粗粒で、長石や火山岩片に富み、 石英に乏しい傾向がある(今井ほか,1975)。地質構造の上から比較すると、前者は走向断層が多く、 帯状構造が顕著であるのに対し、後者は走向の変化が著しく、各地で屈曲構造や短軸性の褶曲構造がみられる。 また、九州の四万十累層群は全域にわたって低度の広域変成作用を受けており、 県内では四万十累層群下部の分布地域の南半分(千枚岩帯)がほぼアクチノ閃石帯に、 北半分がほぼブドウ石・パンペリー石帯に属する(今井ほか,1975)。
四万十累層群下部と上部との岩相・地質構造などの差異から、白亜紀末から古第三紀初頭にかけて、 後背地の著しい上昇運動がありこれに伴って堆積盆地の中心が外側へ移行したものと思われる。