第3章 自然景観と地質
2.海 岸
本県の海岸地形は、第三紀末に起こったと思われる地塊運動と更新世末の海退、及び沖積期の海進と、その後の海退ないし沖積作用によって、現在の骨格がほぼ形成されている。海岸線の屈曲は、地塊運動時の地盤の差別的な変位と、その後の差別的侵食とによって生じたものであり、砂浜海岸は主に河川による土砂の供給と波食とのバランスの上に成立しているものである。
日 南 海 岸
日南海岸本来の自然美は岩と原生林と海の青さであった。このうち原生林はほとんど失われ、ロードパークの植樹に置き換えられた。海の透明さも今後の変化が憂慮される今日、変わらないのは岩だけと言ってもよい。しかし、この岩も地質時代からは幾多の変化が憂慮を経て今日に至ったものである。鵜戸山塊は典型的な傾動地塊であり、宮崎層群の砂泥互層は東へ向かって20度前後の傾斜を示し、これは岬における地形面勾配とよく一致している。”鬼の洗濯岩”として知られている波打際の岩礁は、かつて波浪の浸食作用によって海面下に形成された波食台が海面上に姿を現したものである。恐らくその波食は縄文海進時に最盛期となり、その後の海退によって今日の壮観を露わすようになったものであろう。青島は孤島化した波食台に貝殻や珊瑚の破片が砂とともに打ち上げられて薄く堆積したもので、漂着種子による亜熱帯植物の繁茂、そして神域としての保護によって今日の景観が維持されたものである。青島が波食を受ける以前の姿は、内海南方の巾着島にその原形が見出され、貴重な景観資料である。
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国道220号が未だ遊歩道としての機能を保っていた昭和30年度頃では、青島と鵜戸神宮以外に訪れる車もほとんどなく、沿道はシャンシャン馬の七浦七峠を偲びながら、自然と人の心が触れ合う聖域であった。人の創作品を観賞する庭園や美術館の廊下がそうであるように、自然の造形の美を観賞する沿道にも、先づ静けさが期待されるのは当然であろう。冬末だ去りやらぬ浦々にレンゲ・菜の花・ルピナスが咲き乱れ、鵜戸坂の波岸桜にこだます鶯の声は日南海岸の春を告げていた。砂浜に散りばめられた珊瑚と桜貝、波に漂う椰子の実は、亜熱帯植物漂着の遠い道程と海幸・山幸の伝説を秘めて、遥かなる幻想を誘う静寂がそこにあった。
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日南海岸国定公園の中心、南郷海岸(左遠景は大島) この付近は海中公園に指定されている。 |
都井岬の砂岩層断崖とソテツの自生群落 |
鵜戸山塊が尽きて油津から志布志湾岸に至る海岸には日南層群の山地が迫り、宮崎層群と交差しながら岬や島を作る。日南層群は砂岩と貢岩との組み合わせが複雑であるばかりでなく、著しく乱れているので、海岸線の出入りは不規則で、リズミカルな鵜戸山塊とは趣の違った景観を見せる。幸島・都井岬・弓田・高松などに見られる岬や島は、乱されていない砂岩が波食に堪えている姿にほかならない。南郷海岸は海中公園ともなっている。夫婦浦から市木湾沿岸、一理崎・弓田から高松・夏井に至る海岸は、透明な海底と白い砂浜、自然景観と阻害する構造物や騒音に余り汚染されていないことなどの要件が未だ残されている。これらは野生動物が群れ遊ぶ平和な森と草原、亜熱帯植物群落の繁茂する岩石海岸、静寂と清浄海岸が保たれている砂浜海岸として、日南海岸の中で残された最後の楽園とも言える。