2-1 秩 父 帯
秩父帯は,宮崎県北西縁部の高千穂町,五ヶ瀬町,椎葉村北部などを占めている.秩父帯には先シルル紀の火成岩から,シルル−デボン系, 二畳系,三畳系,ジュラ系,白亜系まで多くの時代の地層・火成岩が分布している(神戸,1957;浜田,1959 )(第1図 23kb).秩父帯の南東限には,仏像構造線と呼ばれる衝上断層が存在し,秩父帯の諸岩類を四万十帯の地層の上へ衝上させている(第2図 49kb)(神戸,1957;村田,1981).秩父帯の内部には,白岩山衝上断層と呼ばれる大規模な衝上断層が存在する(第3図 58kb).白岩山衝上断層は,椎葉村国見岳から,白岩山,財木,五ヶ瀬町飯干峠を通り,そこからほぼ北方に延び,高千穂町三田井西方で食い違った後,高千穂町登尾付近へ延びる(村田,1981;Murata, 1981).秩父帯はこの白岩山衝上断層によって,大きく二つの地帯に分けられる.ここでは,白岩山衝上断層の北西側(上盤)を黒瀬川帯,南東側(下盤)を三宝山帯と呼ぶことにする(第1図 23kb).20万分の1地質図ではそれぞれ,秩父帯(黒瀬川帯),秩父帯(三宝山帯)というように用いられている.なお,この区分は,村田(1981)のものとは一部異なっている.
秩父帯(黒瀬川帯) |
秩父帯(黒瀬川帯)には,五ヶ瀬町鞍岡付近などに,先シルル系の鞍岡火成岩類が分布し,それらは主にマイロナイト化した花崗岩類からなる(神戸,1957).シルル−デボン系は祇園山層と呼ばれ,シルル紀の石灰岩,砂岩,泥岩,そしておそらくデボン紀と考えられる酸性凝灰岩などからなる(神戸,1957;浜田,1959 ).これらの鞍岡火成岩類,シルル−デボン系は両側を断層で切られており,細長いレンズ状のブロックとして黒瀬川帯の中に分布する.これらのブロックを境する断層に沿っては,蛇紋岩が分布するのが一般的である.
秩父帯(黒瀬川帯)の二畳系〜ジュラ系は,チャート,石灰岩,玄武岩質火山岩類,乱雑層,砂岩,泥岩などからなる. チャートは,二畳紀〜三畳紀のものを主とし(村田,1981),石灰岩は二畳紀のものを主としているが,高千穂町三田井北東方の上村石灰岩のように三畳紀のものも含まれる(神戸・斉藤,1957;斉藤ほか,1958).玄武岩質火山岩類は,五ヶ瀬町本屋敷,祇園山北方,高千穂町三田井北方などに厚いものが分布する(神戸,1957;斉藤ほか,1958). 乱雑層,砂岩,泥岩には,二畳紀のもの(曽我部ほか,1995a)とジュラ紀のものが存在すると思われるが,宮崎県20万分の1地質図では,両者はまとめて表示されている.
黒瀬川帯には,戸根川山層,室野層と呼ばれる陸棚相上部三畳系(カーニアン〜ノーリアン)が五ヶ瀬町市ノ瀬付近や室野,笠部付近に分布し,これらは主に砂岩,泥岩,礫岩からなる(田村,1960;宮崎県,1981;村田,1981,曽我部ほか,1995b).また,黒瀬川帯には,大石層と呼ばれる浅海相上部ジュラ系や,戸川層,笠部層,芝之元層,高畑層と呼ばれる浅海相下部〜上部白亜系が分布し,いずれも砂岩,泥岩,砂岩泥岩互層,礫岩からなる(神戸,1957;田代ほか,1991,1993;Tashiro and Tanaka, 1992;Tashiro et al., 1993).
秩父帯(三宝山帯) |
三宝山帯は,仏像構造線に沿う石灰岩卓越層の分布する地帯と,その北西側のチャート卓越層の分布する地帯の二つに分けられる(第1図 23kb),その境界は衝上断層である.
秩父帯(三宝山帯)のチャート卓越層は,椎葉村国見峠から財木にかけてと,高千穂町三田井から日之影町見立にかけて分布する(神戸,1957;斉藤ほか,1958;村田,1981).チャート卓越層が,このように2地域に分かれのは,両者の間の部分が白岩山衝上断層によるナップに覆い隠されていることによる(村田,1981).このチャート卓越層は, 二畳紀〜三畳紀〜ジュラ紀のチャートおよび珪質泥岩,ジュラ紀の砂岩,泥岩,砂岩泥岩互層からなり,一連のチャート−砕屑岩シーケンス(松岡,1989)を作る. ここでは,チャートから砂岩までセットになった地層が,北西傾斜の衝上断層で何回も繰り返して分布している(村田,1981).なお,このチャート卓越層分布域には,椎葉村国見岳東方で石灰岩が,尾前北方で玄武岩質火山岩類が,それぞれ例外的に分布している.
秩父帯(三宝山帯)の石灰岩卓越層は,仏像構造線の北西側に沿って,椎葉村泉峠から,諸塚村黒岳,高千穂町諸塚山,日之影町戸川岳,五葉岳にかけて分布する(斉藤ほか,1958;神戸,1957;Murata, 1981;斉藤ほか,1996).この石灰岩卓越層は,主として三畳紀〜ジュラ紀の石灰岩・チャート,三畳紀と思われる玄武岩質火山岩類からなる(村田,1981; 斉藤ほか,1996).なお,石灰岩からはメガロドンと呼ばれる厚歯二枚貝(Tamura, 1983)が産出する(斉藤ほか,1996).石灰岩卓越層は泥岩・乱雑層を伴っており, これらは,大分県下の「佐伯」図幅地域や「三重町」図幅地域の結果からすると, ジュラ紀〜前期白亜紀と考えられる(寺岡ほか,1990;酒井ほか,1993).