4−5 槇峰層群の地質構造

 槙峰層群の千枚岩は,30°〜70°程度北西に傾斜した層理面を持ち,層理面にほぼ平行な劈開を持っている. 槙峰層群の層理面は,6°〜10°程度と非常に低角な延岡衝上断層に底を切られた形になっている.なお,坂井(1992a)による八戸衝上は, 本書でいう槙峰層群中の断層と考えられる.

 槙峰層群は,片状砂岩や,片状になった砂岩泥岩互層,玄武岩質火山岩類を挟むが,これらも北方に30°〜70°程度傾斜している.砂岩泥岩互層中の砂岩に,級化層理が認められる場合があるが,いずれも北方上位を示している. 槙峰層群分布域で,砂岩,砂岩泥岩互層,玄武岩質火山岩類などを鍵層として追跡しても,その連続性はあまりよくない.一般的な四万十帯の地質構造から判断すると,槙峰層群が南側から北側に向かって,整合一連の地層が分布しているとは考えにくいので,おそらく,北傾斜の衝上断層で同一層準の地層が繰り返しているものと判断されるが,直接的な証拠は得られていない.

 千枚岩の層理面上に認められる線状構造は,おおむね傾斜方向を向いていることが指摘されている(Toriumi & Teruya,1988).長江(1994)によると,泥質岩の中には,上側が北へ向かう(top to the N)剪断センスが認められ,海嶺沈み込みの影響が考えられている.

 尾鈴山クリッペ部での槙峰層群は,すでに述べたように,東傾斜あるいは南東傾斜で,海側に向かって傾斜しており, クリッペ下底の延岡衝上断層も,東傾斜あるいは南東傾斜であり,尾鈴山火山−深成複合岩体に伴う陥没構造の影響が指摘されている(木村ほか,1991).尾鈴山クリッペ部での,延岡衝上断層の傾斜角度は,槙峰層群の層理面よりも緩くなっている.延岡衝上断層を本来の水平に近い傾斜に戻しても,槙峰層群の千枚岩は,東あるいは南東傾斜であり,延岡衝上断層本体の上盤の槙峰層群とは異なっている.