4−10 日向層群荒谷層のデュープレックス

 すでに述べたように, 耳川中流の西郷村荒谷付近の日向層群荒谷層では,赤・緑色珪質泥岩が,上限も下限も衝上断層で境された衝上シートとして存在している(第13図 30kb).この赤・緑色珪質泥岩の衝上シートの上に,100 mの厚さで泥岩が低角度で分布する.この泥岩は,黒色泥岩で一部に砂質のラミナや,厚さ2,3cmの薄い細粒砂岩層を挟むことがある.そのため,弱いへき開が発達する場合でも層理面は明瞭に認められることが多い.また,黒色泥岩は石灰質ノジュールを含むことがあるが,砂岩や玄武岩質火山岩類などのブロックを含むことは,現在までのところ確認されていない.

 黒色泥岩は全体として10°程度の低角に分布するにもかかわらず, 黒色泥岩の個々の露頭では30゜〜60゜Wに傾斜した層理面が観察され, 層理面を下へ延ばすと赤・緑色珪質泥岩の衝上シートに切られ,上へ延ばすと乱雑層に切られる. 黒色泥岩には,堆積時に泥岩の下にあった赤・緑色珪質泥岩が,断層で挟み込まれている場合がある.これらのことから,黒色泥岩は整合一連の地層ではなく,瓦を斜めに重ねたように繰り返すデュープレックス構造を作ると考えられた(村田,1995)(第12図 77kb).なお,さらに南東の日向層群でも,黒色泥岩が衝上断層で繰り返すことが,放散虫化石によって確認されている(西,1987;Nishi, 1988).

 荒谷層の乱雑層に含まれるブロックは大半が砂岩であり,一部に玄武岩質火山岩類や赤・緑色珪質泥岩が含まれる. 乱雑層中の面構造は,泥岩中の層理面と同様に中角度で,乱雑層の上限の衝上断層と斜交することから, 乱雑層もデュープレックスを形成すると推定された(村田,1995).ここでは,下位から,乱雑層の作るデュープレックス,赤・緑色珪質泥岩の衝上シート,黒色泥岩の作るデュープレックス,乱雑層の作るデュープレックスが,それぞれ構造的なユニットとして,ほぼ水平に積み重なっている(第13図 30kb).

 荒谷層の例では小規模な衝上断層がルーフあるいはフロアー衝上断層に漸近するという事実が確認されているわけではなく,覆瓦ファン(imbricate fan)が,後でアウトオブシーケンス衝上断層によって切られたものと識別できない.しかしながら,荒谷層の原層序を考えると,ここの黒色泥岩は,本来,砂岩及び砂岩泥岩互層を主とする地層の下位に位置していたものであり,黒色泥岩と一部その下位の赤・緑色珪質泥岩のみが覆瓦状構造に参加していることから判断して, 黒色泥岩と,砂岩及び砂岩泥岩互層を主とする地層との間にルーフ衝上断層が存在し,基本的にはデュープレックスであった可能性が大きいと考えられている(村田,1995).もっとも,デュープレックスがアウトオブシーケンス衝上断層によって切られた可能性は否定できない.四万十帯には付加時に形成された構造を切るアウトオブシーケンス衝上断層が存在し,構造を規制していることが指摘されており(木村,1997),その認定には注意を要する.