宮崎県季刊誌「Jaja」じゃじゃ
高千穂神楽面

神々のふるさと高千穂町は、神楽の里として知られ、全国から多くのファンを集めている。「岩戸開き」伝説の地である天岩戸地区に住む工藤正任さんも、神楽に魅せられた一人だ。

面彫り師になったのは、35年前。地元の建設会社に勤めていたが、好きな神楽に関わる仕事がしたいと、35歳で会社を辞め、今の道に進んだ。目標とする作品を求めて、各集落に残る神楽面を見てまわり、奉仕者(神楽の舞手)の話を聞いた。こうしたことを繰り返して、繊細な表情をもつ神楽面を形にしていったという。

神楽の里では、神楽面そのものが神様として扱われるため、借り受けることもできない。写真などの資料も少なく、自分の目と記憶だけを頼りにノミをとった。

面彫りで最も難しいとされる生きた表情を出すために、工藤さんは「杢」と呼ばれる木の模様(木目)を活かすことに重点を置く。例えば、勇ましい手力雄命の顔を作るには、目から鼻、頬にかけての隆起がポイントになる。等高線状になった杢の中心に、鼻の部分が当たるように木取りし、左右のバランスを整えながらノミを入れる。杢の現れ方は、木によって異なるため、材料に合った彫りの技術が必要となる。「顔のシワも木目で作ります。だから同じ面でも、少しづつ表情が違います。人間と同じですわ」と工藤さん。

神楽によって結ばれる地域の絆や文化を伝えようと、地元の村おこしグループの世話役も務める。「自分の職業も、村の暮らしもすべては神楽があってのこと。自分は奉仕者にはなれなかったけれど、面づくりで伝統を守りたいと思います」とにこやかに語った。


神楽舞い用には軽いキリの木、装飾用には香りのよいクスの木が使われる。装飾面はお土産としても人気だ。一つひとつ微妙に異なる木目を生かしながら、面にノミを打ち込んでいく。木と語り合うような作業が続く。


問い合わせ/工藤正任
高千穂町大字岩戸399 TEL0982-74-8901