3 秩父帯の中・古生界
(4) 三畳系
秩父帯の中・古生界のうち、化石から浅海成三畳系であることが確認される独立した地層として 上村(かむら)層、戸根川山(とねごうやま) 層及び室野(むろの)層がある。
上 村 層
高千穂町岩戸の北西方、上村・皿糸付近に東北東に細長く連続して石灰岩層が走っている。 この石灰岩は露出幅100〜200mで、大部分は暗灰色を呈し、二畳紀の紡錘虫化石を産する。 この石灰岩体の見かけ上の上部約35mは灰白色で堅く、ドロマイト質であり、 その下部層準からはEumorphotis multiformis,Ptreria ussurica yabei,Gervillia cfr.exporrecta,Entolium discites,Eopecten minimus,Anodontophora canalensis,A.fassaensis などの二枚貝とともに Pseudosageceras sp.,Glypites japonicus,Parahedenstroemia spp.,Aspenites Kamurensis などのアンモナイトのほか、巻貝も産する。 この三畳系石灰岩を主とする地層は上村層(神戸・斎藤,1957)とよばれる。コノドント化石によれば、 上村層は下部・中部・上部層に3区分され、下部層はスミシニアン−スパシアンに、 中部層はラディニアンに、上部層はカーニアン−ノーリアンに相当し、 下位の二畳系上部との関係は非整合とされている(渡辺ほか,1979)。なお上村層の北縁は衝上断層で切られ、 二畳・三畳系に接する。
戸根川山層
五ヶ瀬町荒谷の南方から長原付近を経て内ノ口西方にかけて、200〜600mの幅で細長く帯状に分布する。 地層の走向は東北東−西南西で、傾斜は北西である。両側の二畳・三畳系とは断層で接し、しばしば断層に沿って蛇紋岩がみられる。 地層を構成するものは主に砂岩・頁岩・礫岩である。礫岩の礫は径10cm以下の円礫で、チャート・珪質粘板岩・花崗岩質岩・緑色岩など からなる。長原の南西では泥灰岩を挟む。この泥灰岩からは二畳紀後期を示す Oxytoma cf.multistriatum,Tosapecten suzukii,Frenguelliella(Kumatrigonia)tanourrensis を 産する(村田,1960)。この泥灰岩の北に分布する頁岩からは海百合・蘇虫類および小型のアンモナイトを産する。 内ノ口西方の頁岩には生痕(水底を虫がはった跡)がある。さらにこの地層の北東方延長部分において、Oxytoma の 産出層準よりやや上位の泥質細粒砂岩からは Monotis(Entomonotis)typica group に属する化石を産する。 なおコノドントによっても、本層が三畳紀後期(カーニアン−オーリアン)に属することが知られている(小池・村田,1979)。 本層はかつてジュラ系上部とされていた(斎藤・神戸,1954.神戸,1957)が、以上から本層の大部分は上部三畳系に属する。
室野層
五ヶ瀬町三ヶ所の東方、室野に小範囲に分布する。南限は断層で下部白亜系に接し、 北限も断層で二畳・三畳系に接する。走向は北東−南西で東南に傾斜する。層厚約350mで、 主として泥質細粒砂岩からなる。本層からは Monotis(Entomonotis)ochotica ochotica を産し、 本層が上部三畳系(ノーリアン後期)であることを示している。