佐土原周辺地区

 一ツ瀬川南岸の佐土原広瀬を中心とする南北約5km、東西約3kmの範囲において、昭和50年4月より伊勢化学工業(株)によるガス採取、ヨウ素採取事業が行われている(第13図・第14図)。


第13図 生産井(近景)と掘削中の坑井(遠景)


第14図 生産設備(セパレーター)

 本地域の宮崎層群は北北東−南南西の走向を有し、東へ10゜〜20゜で緩く傾斜する単斜構造を示し、下位より田野、綾、高岡、倉岡、瓜生野、都於郡、佐土原、高鍋の各部層に区分される。このうち現在開発の対象となっているのは都於郡、佐土原の2部層である。岩相的には両部層とも砂岩・泥岩の互層で砂岩が優勢している。開発区域での両部層の平均的な深度および層厚は佐土原部層上限が深度200〜300mで層厚は500m、都於郡部層上限が深度600〜800mで層厚は500m程度とされている。

 本地域の宮崎層群は都於郡部層の基底を境として堆積盆地の形が大きく変化しており、かつこれを境として固結度に著しい差がみられる。都於郡部層以上の諸層の堆積盆地の中心は一ツ瀬川河口付近にある。堆積環境は田野部層が海岸線から遠くない浅海に堆積したものであり、綾部層が少し内湾的なところに堆積したものであることを除くと、全体として外洋の低浅海帯の下部ないし半深海帯の上部に堆積したものであろうと考えられている。

 ガス開発に際しては、地層の浸透率が重要な要素となるが、これについては地表で採取した砂岩の浸透率を第3表に示す。

Sample No.

採取地層

浸透率
(ミリダルシー)

Ss−1 川原部層 29
Ss−2 820
Ss−3 500
Ss−4 佐土原部層 1400
Ss−5 高鍋部層 73
Ss−6 190
Ss−7 180
Ss−8 妻 部 層 37
Ss−9 川原部層 300

第3表 宮崎層群砂質岩の浸透率(福田・永田(1974)より)

 これらの試料はまとまったブロックとして採取する必要があるため、もともと浸透率の大きい所に集中しやすく、埋没深度も浅いので、地下での浸透率と直ちに比較できないし、部分的な値であるが、地下でもある程度の浸透率があろう事は予測に難くない。ちなみに通常共水性ガスの貯留層については、有効孔隙率25%以上、浸透率50md以上が必要条件といわれている。次にガス母層としての能力については、泥岩中の有機物質量を第4表に示す。

 抽出有機物の総量は四万十累層群では少ないが宮崎層群では平均0.024%で南関東ガス田の総上層群の平均的値とほぼ等しい。石油化学も四万十累層群では低いが、宮崎層群では平均0.0096でかなり良い値といえる。宮崎層群の抽出有機物の組成は炭水化物が30%前後、O−N−S化合物が20%前後、その他が50%前後である。これらの試料の採取位置は第15図に示してある。

 試掘井におけるガスおよび付随水の成分は第5表に示すとおりである(第16図)。ガス成分は98%前後のCH4のほか重炭化水素も若干含まれている。水質ではCa2+/Mg2+の値が採取層準が下がるにつれて大きくなる傾向がある。

 本地域で特筆すべきことはガス鉱床であると同時にヨウ素鉱床でもあるということであり、付随水中のヨウ素は平均でI-=70ppm程度含まれている。ヨウ素は医療品、感光剤等として広く利用されているハロゲン元素であるが、海水中ではI-の形で5×10-5g/lと、ほとんど無に等しい。従ってガス付随水中のヨウ素の起源については褐藻類、紅藻類等の海藻類が砕屑物と共に堆積され、濃縮されたものと考えられている。ヨウ素の回収は空気追い出し法(ブローアウト法)と呼ばれる以下のような化学反応を利用した方法で行われている。

(放散)  2NaI+Cl2 I2+2NaCl
 ↓ (煙状)
(吸収) I2+SO2+2H2O H2SO4+2HI
 ↓
(晶析) 2HI+Cl2 I2+2HCl

現在の開発は30坑井によりガス量約16,000m3/日、揚水量約7,000/日、ヨウ素約13t/月の生産実績を上げており、ガスは6,000〜8,000m3/日をパイプラインを通じて宮崎市の都市ガス減量として供給しているが、今後より多量のガスを都市ガスとして利用できるか否かが、本地域開発の最大の課題である。