宮崎県季刊誌「Jaja」じゃじゃ

Jajaバックナンバー

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霧立越トレッキング
九州脊梁山地を貫く「駄賃付けの道」をゆく 

駄賃付けの道
馬が荷を運んだ、 山の幹線道路

九州脊梁山地のほぼ中央部、椎葉村から五ヶ瀬町にかけての一帯には、向坂山(1668m)や扇山(1661m)をはじめ、1600m級の険しい山々が連なる。 ブナの深い森に覆われた、この山塊は、かつて日向の国と肥後の国を隔てる壁であり、また東九州と西九州を分かつ分水嶺でもあった。今から4億3千万年前、九州島が初めて出現した時に、最初に隆起したといわれる祇園山も、この附近にある。 この山々の尾根伝いに、一本の道がある。熊本県山都町馬見原から、椎葉村尾前へ至る全長約30kmの道は、昭和8年に椎葉と日向を結ぶ自動車道が開通するまでは、重要な交通路であり、物資や人が流通する動脈でもあった。 「駄賃付け」と呼ばれた運送を生業とする人々が、馬見原からは酒や塩を、椎葉からは木炭やお茶を馬の背にくくりつけて、九州山地の真ん中を貫くように往復する。

中でも、向坂山から扇山を経て椎葉へ至る尾根道は、「(きりたちごえ)」と呼ばれ、難所として知られていた。尾根道自体は、歩きやすい平坦に近い道なのだが、そこにたどりつくまでに、いくつもの崖や急坂を越えることになる。かつて、椎葉に住み着いた平家の落人がたどり、西南戦争に敗れた西郷隆盛の一行が、人吉に向けて逃れた霧立越の道。交通の発展で、長く忘れられていたこの道が、現在、素晴らしい景観と多様な自然を楽しむトレッキングルートとして注目されている。

霧立越の風景

四季おりおりに美しい森の道

霧立越トレッキングのメインルートは、五ヶ瀬ハイランドスキー場がある向坂山の麓から、日肥峠、白岩山を抜けて扇山登山道に至る全長約12km、約6時間の行程だ。 五ヶ瀬町側の始発点までは林道が整備されているため、自動車で行くことができ、途中の坂も比較的なだらかで、家族連れでも十分に楽しめるコースとなっている。九州山地の真ん中を走るルートからは、遠く阿蘇や九重連山を一望でき、その景観は素晴らしい。 一帯には、ブナやミズナラなどの落葉樹の原生林が、ほとんど手つかずのまま残っているため、春の新緑、秋の紅葉と季節ごとに美しい自然を味わうことができる。

また、冬の朝には、条件によってはあたりの木々が樹氷に姿を変える。朝日を受けてきらめく樹氷や、純白の世界を楽しむスノートレッキングも人気だ。 春から初夏にかけては、シャクナゲ、アケボノツツジ、キリタチヤマザクラなどの花々が一斉に咲き、イタドリやワラビなどの山菜も芽吹く。 四季を通じて、さまざまな森の魅力を伝えてくれる霧立越トレッキングに、ぜひトライしてみてほしい。地元では、専門のガイドが案内するメニューも用意されており、体力や目的に合わせていくつかのコースを選ぶことができるようになっている。

周辺の景観
左)周辺には、石灰岩の地層が露出し、貝類やサンゴなどの化石が見られる。
中)日肥峠にある「霧立越関所」と書かれた箱には、記名帳が収めてあった。
右)冬季は、白銀の世界を歩くスノートレッキングが人気。樹氷に覆われることも。

ルート

問い合わせ
霧立越の歴史と自然を考える会(やまめの里) 0982-83-2326
五ヶ瀬町地域振興課 0982-82-1717