宮崎県季刊誌「Jaja」じゃじゃ

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美郷町北郷区
日向炭の伝統を受け継ぐ宇納間備長炭

江戸時代から、寒い京都の冬を暖めた「日向炭」。 かつて高瀬舟で耳川を下り、美々津から千石船で上方へ運ばれた 日向の炭は、現在、日本三大白炭のひとつとして高く評価されている。 その中心的な産地、美郷町北郷区を訪ねてみた。

宇納間備長炭

火除け地蔵の別名で、古くから信仰を集める宇納間地蔵の里、美郷町北郷区。耳川、五十鈴川、五ヶ瀬川の流域にはさまれたこの地域は、宇納間備長炭で知られる炭焼きの里だ。 十代の頃から、炭焼きを続ける辰野林さん(77)は、平成19年、所有の山林に新しい窯を開いた。ここ数年、北郷区では毎年、新しい窯ができ、山里の暮らしに憧れて町外から移住してきた方も6組、ここで炭焼きを始めているという。 日本三大白炭のひとつ「日向炭」の中心的な産地、北郷には、その伝統を守るというだけでなく、新たな勢いが生まれている。宇納間備長炭の魅力について、辰野さんに聞いた。

炭焼き風景

理想の炭を焼きたい

「もう60年もやっておりますから、私にとって炭焼きは暮らしそのものですな。この年になって新しい窯を作ったのも、自分のやりやすいように、理想の炭を焼けるようにということで」

原料にアラカシを使う北郷の炭焼き窯は、窯内部と壁で隔てた燃焼室をもつ。窯にじかに火を入れず、蒸し焼きにすることで、じっくりと水分を飛ばして乾燥させるのだが、その工程に二十日、完成までに約一月もかかる。

一方、紀州、土佐などの、他の備長炭の産地では、水分の少ないウバメガシを使うため全工程が十日で済む。宇納間備長炭は、他の産地の三倍の時間をかけて焼き上げていることになる。 「炭は硬ければ硬いほど良い、とされてきましたが、実際に使ってみると、硬い炭は爆(は)ぜやすかったり、火付きが悪かったりします。宇納間の炭は、備長炭の中では少し柔らかい方なので扱いやすいといいますな。ただ、時間がかかりますので、年に十回ほどしか焼けませんが」

辰野林さんとアラカシ
左)この道60年の辰野林さん。炭焼きが好きで、用がなくても窯の前で一日過ごすこともあるという。
右)原料となるアラカシ。宇納間の炭は、火持ちと火付きに優れる。

燃える火の前で、窯出しは時間続く

一回の炭焼きに運び込む原木は、約7トン。業者が近くまで運んできたものを小分けして軽トラックに移し、それから山の斜面にある窯の中に抱えて運び、腰をかがめてきれいに並べていく。77歳のお歳で、この作業量は驚きだ。 「7トンくらい運ぶのは半日仕事です。それよりも、窯出しがきつい。焼けた炭を少しずつ窯から出して、灰と土を混ぜた消粉をかけていくのですが、これには16時間ほどかかります。焼けた火の玉が相手ですから、熱いし、休むわけにもいきません」

「今の夢は、山にヤマツバキを植えること。椿油をとるのです。ツバキの育ちを見ながら炭焼きをやっていたい。いくつになっても、こんな夢を持てるのだから、働くことはいいことだと思いますな」 二十日間の乾燥の後に着火。窯に空気穴を開け、それを少しずつ広げながら焼き上げる「ねらし」という工程を経て、いよいよ窯出しの朝になった。 最初に窯から引き出された炭は、真っ赤に焼け、張りつめた山の大気に、鈴が鳴るような透明な金属音が響く。それは、炭が「生まれる」音のように聞こえた。

窯から引き出された炭
窯から炭が引き出されると、鈴のような金属音が響いた。

問い合わせ:美郷町北郷支所産業振興課 0982-62-6203