宮崎県季刊誌「Jaja」じゃじゃ
ひむか神話街道をゆく

西都市

観光の問い合わせ/西都市観光協会TEL 0983-41-1557

宮崎県西都市/奈良時代には朝廷の国衙(役所)と日向国分寺が置かれ、南九州の中心地の要衝のひとつとして栄えた歴史をもつ西都市。さらに311基もの古墳がある西都原古墳群の存在は、古代から相当な規模の国がこの地にあったことを思わせる。古事記神話にまつわる伝説の地も市内に数多くあり、歴史のロマンを感じさせてくれるまちだ。

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西都原古墳群の夕焼け。1500年以上も前に、これほど壮大な構築物を作る西都の人々は、この地でどんな暮らしを営んでいたのだろうか。

古代の息吹が伝わるまち・西都

古事記、日本書紀のハイライトといえるのが、「日向三代神話」だ。天孫瓊々杵尊の降臨と、山の神の娘である木花咲耶姫との結婚、その子である海幸彦・山幸彦の誕生。さらに山幸彦の孫である初代神武天皇の誕生あたりまでが、日本神話のひとつの根幹となっており、神武天皇の登場以降は「神話」から「歴史」へと少しずつトーンを変えていく。

瓊々杵尊より以前、天照大神や須佐之男命が活躍する岩戸神話などの物語は、舞台が天上界である高天原に設定されていることから、どことなくおとぎ話めいているのだが、日向三代神話以降は地上界の、それも日向が舞台になっており、宮崎に住むものとしては、途端に話が身近に感じられてくる。神話の名残りをとどめた地名やエピソードが、生き生きと受け継がれている土地ならなおさらのことだろう。

西都市は、そんな宮崎県の中でも、神話と遺跡が凝縮されたようなまちだ。311基の古墳がある日本有数の古墳群である西都原古墳群や木花咲耶姫を祀る妻(都萬)神社をはじめ、このまちに点在する史跡を歩いてみるだけで、日向神話の息吹にふれることができる。

天孫の結婚物語

高千穂に降臨した天孫瓊々杵尊は、逢初川で出会った大山祇神(山の神)の娘、木花咲耶姫と結婚する。これは、天上界と地上界の神々を結びつける象徴的なイベントとなるのだが、この時、娘を請われた大山祇神は、木花咲耶姫の姉である石長姫とともに娘を嫁がせようとする。ところが、輝くばかりに美しい木花咲耶姫と比べて石長姫の方は、あまり容貌が芳しくなく、瓊々杵尊は石長姫を返して、木花咲耶姫だけを妻にめとってしまう.

父・大山祇神は「あなたの子孫が花のように栄えるように、その命が岩のように永らえるようにと、姉妹そろって差し上げたものを。これより、あなたの子孫の命は木の花のようにはかないものとなるでしょう」と嘆き、古事記には以来、「天皇の寿命が短くなった」と記されている。

一方、瓊々杵尊との結婚以前に、木花咲耶姫に求愛した鬼がいた。父・大山祇神は「娘がほしければ一夜にして石の館を建ててみよ」と難題を出すが、鬼はこれをやり遂げてしまう。それが鬼の窟だ。困った大山祇神は、鬼が寝ている間に窟の天上岩を一枚抜き、これを理由に縁組を断ったといわれている。大山祇神を祀る石貫神社には、この時、大山祇神が放り投げたといわれる岩が鎮座している。

三皇子の誕生

結婚した瓊々杵尊と木花咲耶姫だが、その契りは一夜かぎりのものだったという。『天皇家のふるさと日向をゆく』(新潮社刊)の著者・梅原猛氏は、このくだりを「渡来人の王である瓊々杵尊と、土着の王の娘・木花咲耶姫との結婚には周囲の反対や本人の心にもある種の抵抗感があったに違いない」と推察している。ともあれ、一夜の契りで木花咲耶姫は懐妊するのだが、これを瓊々杵尊に疑われてしまう。嘆いた木花咲耶姫は、自らがこもる産室に火をかけて毅然として言う。
「腹の子がまことにあなたの子ならば、この火の中からでも生まれてまいりましょう」
この時の産室の跡が、無戸室として残っている。

こうして、火照命(海幸彦)、火須勢理命、火遠理命(山幸彦)の三皇子が生まれる。この時に産湯を使ったのが児湯の池で、現在の児湯郡という地名の由来になったといわれる。壮大な規模をもつ西都原古墳群などの数々の史跡が、記紀神話とどのように折り重なりながら歴史を刻んできたのか、古代に思いを馳せながら西都のまちを歩いてみると楽しい。

西都原古墳群

西都原古墳群
東西2.6km、南北4.2kmの範囲に、前方後円墳、円墳、方墳など311基の古墳をもつ日本有数の古墳群(国指定特別史跡)。全長211mと最大規模の男狭穂塚と、全長174mの女狭穂塚は、それぞれ瓊々杵尊と木花咲耶姫の陵墓と伝えられている。

宮崎県立西都原考古博物館

宮崎県立西都原考古博物館
4月にオープンしたばかりの西都原考古博物館は、「常設展示ではなく常新展示」のポリシーから、常に新しい発見のある展示に取り組んでいる。地下1階、地上3階の建物には最新技術を駆使した考古学展示が展開されており、体験講座やイベントにも意欲的だ。南九州のこの地に、古代、何があり、どんな人が住んでいたのか。そんなロマンを感じさせてくれる博物館だ。
宮崎県西都市大字三宅5670番/TEL:0983-41-0041/開館時間:10時〜18時/入場無料

妻(都萬)神社

妻(都萬)神社
古代から中世にかけて南九州の中心地のひとつだった西都の歴史を反映して、妻(都萬)神社は続日本後記(837)にも官社としてその名が出ている。祭神である木花咲耶姫はこの地で初めて甘酒を醸して子に与えたといわれ、境内には日本酒発祥の碑が建てられている。

児湯の池

児湯の池
三皇子の産湯を使ったという伝説がある児湯の池。現在でも澄んだ水をたたえている。