宮崎県季刊誌「Jaja」じゃじゃ
フォト・ファンタジスタ

Photographer Shuji Uchimura

●1967年
宮崎県高原町生まれ。
●1990年
琉球大学理学部化学科卒業。卒業後、バイクによる日本一周単独行。この旅をきっかけに一眼レフカメラを購入。
●1995年
「第3回風景写真新人杯(現前田真三賞)」を受賞。
著書に「高千穂峰」「霧島連山」
現在、高原町役場建設課勤務

高千穂峰北面

高千穂峰北面を舞う雪煙

私が霧島連山の最高峰韓国岳(1700m)の霧氷に初めて出会ったのは、1992年1月15日の夜明け前だった。辺りが暗いうちから山頂に到着し、しんしんと冷え込む中で待ちつづけて目にした霧氷は、厳冬のみが作り出すことのできる造形美だった。

霧氷は氷点下の気温の時、過冷却した霧の粒や水蒸気が木の枝や岩に付着したもので、樹木に付着したものが樹氷となる。水分の供給がなく風だけではむしろ樹氷は剥ぎ落とされてしまう。この朝は、霧氷が一番美しい時に風がやんだのだろう。これほどまでに穏やかですべてが霧氷に包まれた世界は見たことがなかった。

冬の華(韓国岳山頂)

冬の華(韓国岳山頂)

しかもこの朝は新燃岳の噴火が活発で、私が見てきた噴煙活動の中で最大のものだった。そして山頂には私一人。このような贅沢な時間と場所は二度と体験できないだろうと思われる千載一遇のシャッターチャンスが、霧島連山の撮影を始めて2ヶ月目の私に訪れた。夜明け前の暗く弱い光だったが、長時間露光で1回目のシャッターを切った。その後も夢中でシャッターを切り続け、気づいた時には手持ちのフィルムをすべて使い切っていた。

岩に付着した霧氷

岩に付着した霧氷

この時の写真は技術的に未熟だったため世に出すには恥ずかしいが、新燃岳の噴煙活動と霧氷を同時にとらえた記録写真として、今も私のファイルに残っている。現在の私は感動を記録するための多くの機材を持ち、技術的には向上しているが、この時以上の氷点下の世界には出会えていない。

自然は、その場にいた者に一瞬だけの美の世界を見せてくれることがある。それに出会うための努力と、表現するための冷静な判断力だけが本当の感動を伝えるのだろうと考えている。

氷の造形(不動池)

氷の造形(不動池)