宮崎県季刊誌「Jaja」じゃじゃ
フォト・ファンタジスタ

写真・文 川崎伴平

1935年生まれ。写真歴36年のアマチュアカメラマン。二科展、九州二科展、宮崎県美術展など入選多数。1993年から95年にかけて、九州100山を踏破。

著書に「大崩山の四季」、「大崩山系」がある。2006年4月、フォトエッセイ「大崩山系写真集」を鉱脈社より出版予定。

花崗岩の峰々と渓谷美

大崩山系

宮崎県北部に位置し、祖母傾国定公園の中にある大崩山系は21の峰と三つの渓谷をもつ壮大な山岳である。その中核となる大崩山は、全山が花崗岩からなる岩峰、断崖絶壁でできており、渓谷や滝も花崗岩特有の美しい景観を作り出している。この山々は、約1400万年前の中新世に四万十累層群を貫いて地表へ現れたといわれている。

小積ダキから望む上湧塚・中湧塚

小積ダキから望む上湧塚・中湧塚。荘厳な城壁を思わせる岸壁は、自然の息吹の凄まじさすら感じさせる。

マグマが地中からせり上がってくる際、現在の大崩山を取り巻くように地下に裂け目ができた。その裂け目へマグマが流れ込み、それが隆起して周りの山々になった、リングダイク(環状山脈)と呼ばれるものである。また谷間をマグマが流れ下って固まり、その後、水流に削られて現在の美しい花崗岩の渓谷が形成された。

中瀬松谷の渓谷

中瀬松谷の渓谷。花崗岩特有の柔らかな岩肌を清水が走り抜ける。

この山系に、4月中旬から5月半ばにかけてアケボノツツジが満開の花をつける。家屋よりも高い大木の枝が一面に花を咲かせ、全山の稜線をピンクに染める風景にひかれて、多くの人々がこの山に登る。紅葉、黄葉、常緑樹の混じりあう秋の山も美しい。

三里河原渓谷のアケボノツツジ。

この山には、いくつもの歴史のロマンも秘められている。山系の東の端に位置する可愛岳は日本書紀に記された天孫ニニギノミコトの御陵墓伝説の山だ。戦国時代には、日向に落ちた武田一族が銀鉱を発見して大吹鉱山を開いた。また明治10年の西南戦争では、官軍に追われた西郷軍が可愛(えの)岳からこの山系を抜けて高千穂へ敗走している。

象の岩。この岩場は難コースで、ロープをたどって登る。

57歳の時、友人の誘いで九重山に登った。その感動から「九州百山踏破」を目標に登り始めたのだが、屋久島を別格にすれば、九州でもっとも豊かな季節や自然を味わわせてくれるのが大崩山系だと思う。この山を尊び、何百年もの間、原生林を伐採することなく守り続けた先達へ感謝したい。

三里河原上流 ササユリ
満開のアケボノツツジ 下湧塚

写真左上)三里河原上流。川底は花崗岩の一枚岩。
写真右上)初夏に花を咲かせるササユリ。
写真左下)山霧が満開のアケボノツツジを包む。
写真右下)美しい姿をみせる岩峰、下湧塚。