宮崎県季刊誌「Jaja」じゃじゃ
神楽鑑賞入門
神楽鑑賞入門
神楽鑑賞入門

    

神楽が、ほかの伝統芸能と異なるのは、そこに必ず「神」がいるという点だ。

とにかく神様が降臨しないことには、神楽は始まらない。そのために人は、依(よ)り代(しろ)としての注連(しめ)を建て、さまざまな模様の彫(え)りものをめぐらした神庭(こうにわ)を設け、行列をなして神迎えをする。

長年、舞い手を務めるベテランでも頭にあるのは、間違えたらえらいことになるというおそれだけであるというし、そんな人たちが自分の出番が終わった後に、放心して涙ぐんでいる光景もよく見られるという。それもつまり、「神」があってのことだろう。

神楽の里では、まるで近くに住む親戚のような距離感で神様が語られている。山には山の神がおられ、川には川の神がまします。それどころか樹木やかまどにまで、それぞれに神がいる。

各地の神楽を見てみると、そうした八百万の神の存在を認めることで、人々は自分たちに恵みをもたらしてくれる自然に感謝し、おそれ、結果としてうまく自然と共生する知恵を身につけてきたように思えてくる。

宮崎には、山、里、海辺と、それぞれの土地柄と歴史を反映した神楽が数多く伝承されてきた。それは頭で理解するというよりも、代々、身に染み込ませてきた自然への謙虚さに支えられている。われわれの先祖が残してくれた知恵の深さに学びたい。

神楽鑑賞入門

最古の記録は八百年前
記紀神話に登場する天鈿女(あめのうずめ)命(のみこと)が岩戸の前で面白おかしく舞い踊ったのが、すべての芸能の起源とされており、神楽の原形もここにあると言われている。狭義の神楽では、文治五年(1189)の「十社大明神記(高千穂神社)」に「七日七夜の御じんらく(神楽)」という記述があり、これが宮崎県内で神楽を表すものと思われる最古の記録とされている。

ほしゃどんとは舞手のこと
ほしゃどんとは高千穂地方で神楽の舞手のことを指す呼び名。別名を祝子(ほうり)ともいう。ほしゃどんには、奉仕者という字が当てられるが、一説には「法者どん」であるともいう。修験道との関連を色濃く反映している。この舞手の選ばれ方も土地さまざまで、家として代々受け継がれているところもあれば、志願して舞手となるところもある。

クモ、アマ、ヤタンバン
神楽の舞処(まいど)は高天原(たかまがはら)を表したものとされているが、その真ん中にはクモ(高千穂)、アマ(銀鏡)、ヤタンバン(祓川)などと呼ばれる天蓋のようなものが吊ってある。その形は円形、方形といろいろだが、おそらく天の中心を意味しているのだろう。銀鏡神楽では、主神である西之宮大明神の舞いの際、アマの下からほとんど出ることなく、その場で舞い続けるという。

鑑賞料の相場は?
本来、神楽は地域の人々の祈りの場。お客はそれを見せてもらう立場なので、振る舞いには気をつけたいもの。鑑賞料というよりも、人のお宅をお邪魔する時の礼儀として「焼酎二本または現金で2000円ほど」が一応、相場となっている。高千穂のように、客は一夜氏子として扱われ、初穂料の名目で納めるところもある。地域によっては、かっぽ酒やそば、煮しめなどのふるまいが出るが、これはお金を払ったから、という性質のものではないので注意。

神庭は神聖な空間
神楽の舞台となる神庭は、神様が降臨するとされるきわめて神聖な空間。神職や舞手以外の立ち入りは地元の人でもタブーなのだが、時々、これを侵してしまう人がいるという。神楽の成り立ちそのものを傷つけてしまう行為なので気をつけたい。神庭は天井に四角い仕切りをしつらえてある、その内側の空間で、これを境に人の世界と神の世界が隔てられるとされている。

寝る場所はある?
これは地域によってさまざまなので、事前に確認を。夜神楽の場合、夜を徹して舞うものなので、お客もみんなで寝てしまうことはなく、たいていの人は時にうつらうつらしながらも朝まで起きている。また、夜明けを迎える感動が、神楽の醍醐味のひとつでもある。夜神楽は冬の夜、家の戸なども開放して行われるので、防寒対策は十分に。毛布、寝袋などは一応用意しておいた方がよい。

神楽の必須アイテム
手ぶらで行くと、案外困ることがある。夜食用のおやつ、温かい飲み物は忘れずに。煮しめなどを分けてもらう時の紙皿、割り箸などは、神楽宿で準備されることもあるが、これも一応、準備しておいた方がよいだろう。また、神楽宿によってはトイレが戸外にあることがあるので、懐中電灯が役に立つ。また、携帯電話の電源は切るかマナーモードにしておこう。

    

 

この冬、宮崎の神楽を見にいきませんか?


名 称
日 程
問い合せ先
TEL
内 容
船引神楽 1月1日 清武町船引神社 0985-85-1628 1月1日午前零時を期して行われ、神酒・甘酒などがふるまわれる。
桑野内神社夜神楽 1月8日 五ヶ瀬町桑野内神社 0982-82-1318 神楽33番が夜を徹して行われる。
おひとの夜神楽 1月15日〜16日 日之影町社会教育課 0982-87-2309 昼は神社境内で、夕方から夜中は民家で舞い、翌日神社で神楽が奉納される。
戸下神楽 1月29日〜30日 諸塚村観光協会 0982-65-0178 源流は岩戸神楽とされ、戸下神楽は51番まである。
高千穂神楽 〜2月上旬 高千穂町商工観光課 0982-73-1212 昼神楽も合わせると集落ごとに50以上の神楽がある。
椎葉神楽 〜2月上旬 椎葉民俗芸能博物館 0982-68-7031 村内26の集落で開催。宮崎でもっとも古式を残した神楽といわれる。
新田神楽 2月17日 新富町新田神社 0983-35-1601 豊作を祈願する神楽。33番が舞われる。
中野神楽 3月6日 清武町中野神社 0985-85-1983 清武町内で最も古い神楽で、五穀豊穣・子孫繁栄の奉納が行われる。
今泉神楽 3月21日・27日 清武町今泉神社 0985-85-2282 約400年の歴史ある神楽で、毎年大勢の人で賑わう。
高千穂観光夜神楽 通年 高千穂町観光協会 0982-73-1231 毎夜、8時から約1時間行われる。拝観料1人500円。

行事の日程ついては、変更になることがあります。
詳しくは主催者にお問い合わせください。

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