宮崎県季刊誌「Jaja」じゃじゃ

Jajaバックナンバー

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新鮮、豪快、港町の味1

こなます

こなます

細島に伝わるカツオの焼きおにぎり。
こなますは、家庭に持ち帰るお土産だった。

細かく刻んだカツオの身をご飯に混ぜておにぎりを作り、それをじっくりと焼き上げる、細島の名物料理。魚の群れとともに太平洋岸を移動するカツオ漁師は、各地の港で交流があるので、料理も各地に伝わっていくのだが、こなますは全国でも細島にしかないといわれる。

昔、漁師はおひつにご飯を入れて沖に持っていき、釣れた魚をおかずに食べていた。ある時、余ってしまったご飯を、魚の身とともにおにぎりにして、七輪であぶって持ち帰ったのが始まりらしい。したがって、こなますはお弁当ではなく、沖からのお土産だったのだ。家の者たちの喜ぶ顔を思い浮かべながら、揺れる船の上でおにぎりを焼いた、漁師たちの優しさを感じる料理だ。

 

カツオの塩辛

カツオの塩辛

しこしことした歯ごたえと、深い滋味。一味ちがう、沖づくりの塩辛。

一般にもなじみ深いカツオの塩辛だが、漁師たちが釣りたてのカツオを使って沖で作るとなれば、一味も二味もちがう絶品になる。目井津漁港で教えていただいた塩辛は、胃袋と甘腸(アメワタ)と呼ばれる部分のみを使う。胃袋を細かく刻み、その半分ほどの量の甘腸であえて、塩をし、時々かき混ぜながら、1週間ほどで完成する。

こりこりとした胃袋の食感と、甘腸の滋味のある甘みやほろ苦さが溶け合って、素晴らしい味わい。ご飯にも焼酎の肴にもよく合うが、わさびを添えてお茶漬けにすると、かすかに潮の香りを感じる、海の町らしい味わいだ。

 

カツオめし

カツオめし

揺れる船の上、忙しい合間にかきこんだ、豪快な漁師たちの料理。

すっかり日南、南郷の名物料理になったカツオめしも、もともとは漁師料理だ。いざ漁が始まると、細かなことにはかまっていられないほど忙しくなる漁師たちは、とにかくご飯だけ炊いておいて、釣れた魚の刺身などで食事をしていた。

悠長に食べていられないので、丼めしに刺身をのせ、醤油をかけてかきこむ。余った刺身は醤油に漬けておいて、またご飯にのせて食べる。あるいはお茶漬けにする。目井津漁港に隣接する「港の駅・めいつ」では、地元産の甘い醤油をベースにしたタレが好評。周辺の料理店でも、工夫を凝らしたカツオめしが供されている。

 

カツオの焼き切り

カツオの焼き切り

皮つきのまま、さくをあぶって、身と皮の間にあるうまみを生かす。

三枚におろし、さくにとった身を強火であぶって刺身にする。いわゆる「カツオのたたき」を、宮崎では焼き切りと呼ぶ。カツオに限らず、カサゴやマダイ、トビウオなど、たいていの魚は焼き切りで食べることができる。魚は、身と皮の間に、独特のうまみがある脂があり、それを逃さずに食べる料理方法だ。

ただし、普通の焼き魚のように、強火の遠火などにすると、中まで火が通って焼き上がってしまう。ガスに網をのせ、強火の直火で、短時間で焼いてしまうのがコツ。氷水にとると、せっかくのうまみが溶け出するので、冷蔵庫で冷やす方がいいという。

 

カツオの刺身

カツオの刺身

宮崎ではカツオといえば刺身、
近海獲れの新口カツオが最上とされる。

カツオといえばたたき、ということになっているが、本場宮崎では、むしろ刺身で味わうことが多い。漁師たちの間では、前日に獲れたカツオを新口(しんぐち)と呼び、これが最上のものとされる。2日目は留めガツオ、3日目が三番手、4日目が四番手となり、だんだんと値段も味も落ちていく。

カツオは群れをなして大移動をするが、屋久島周辺や宮崎沖には、一年中居着いているものもいる。したがって、釣ったその日のうちに帰港する小型の曳き縄船や、一本釣りで獲る屋久島のカツオは、新口を食べるチャンスが多い。写真は、丸々と太った屋久島獲れの新口カツオ。もちもちとした身には甘みがあり、上等のマグロにも似たうまさだった。

 

カツオの味噌たたき

カツオの味噌たたき

包丁で細かくたたいて、味噌を混ぜる。
各地につたわる港町の伝統料理。

銚子から和歌山、四国、九州東海岸と、黒潮のあたる太平洋岸では、魚の身を細かく刻んで食べる漁師料理の伝統があるようだ。この味噌たたきもそのひとつで、カツオの身を包丁で細かくたたいて、味噌やネギを混ぜて仕上げる。そのまま食べてもいいし、鍋に放り込めばつみれ汁にもなり、お茶漬けにしてもよい。

このたたき料理は、なめろうと呼ばれる地方が多く、アジやイサキ、イワシ、トビウオなどでも作る。暑い日は、刻んだ身を氷で冷やした味噌汁に入れて水なめろうにし、網でじっくりと焼いたものは、さんが焼きという料理になる。

 

カツオのあら煮

カツオのあら煮

捨てるところがほとんどないカツオ
あら煮も、鮮度が高いほどおいしい。

魚料理の口伝に、「生か、焼くか、煮るか、捨てるか」という言葉がある。鮮度の高い順にふさわしい料理法のことで、煮て食べられない魚は捨てるしかない、という意味だそうだが、実は煮物こそ、鮮度が出てしまうのではないだろうか。新鮮なカツオの中落ち、頭、目玉、心臓などを、甘辛く煮る。部位ごとに複雑な味があり、いつまでも箸が止らない楽しさがある。

宮崎カツオ、マグロ紀行