宮崎県季刊誌「Jaja」じゃじゃ
伝統漁法を旅する

伝統漁法を旅する

九州山地の森の恵みがたくさんの魚や貝を育て、沖合には、南の海から回遊魚を運ぶ黒潮が流れる宮崎の海。その豊かな水辺には、素朴ながらも深い知恵にみちた伝統の漁法が受け継がれている。

豊かな海に伝わる伝統の漁

太平洋の大海原に面し、447キロに及ぶ宮崎の海岸線には、北部のリアス式海岸から、県央部の長大な砂浜、南端の太平洋に突き出した都井岬と、それぞれに違った表情を見せるスケールの大きな海の姿がある。九州山地の深い森からは、五ヶ瀬川、大淀川などの河川によって豊かな栄養分が運ばれ、沿岸では海草、マダイやアジ、ウニ、カキなどの魚や貝が育ち、遠く南の海からは、黒潮にのってカツオやマグロ、シイラなどの回遊魚がやってくる。

四季折々に豊かな恵みをもたらしてくれる宮崎の海を舞台に、神話の時代には「海幸彦・山幸彦」の物語も生まれた。荒磯、砂浜、干潟、さらに沖合を走る黒潮と、多様な姿をみせる宮崎の海には、日本の海の原風景がそろっているのだろう。そんな宮崎には、もしかすると神話の時代から続いているのではないかと思われる伝統の漁法が、いくつも受け継がれている。それは先端の技術を駆使した近代漁業と見事に共存しながら、われわれの食卓に海の幸を運び、あるいは余暇の楽しみに形を変えながらも、今の時代にしっかりと根をおろしている。素朴ながらも深い知恵にみちた伝統の漁を、各地に訪ねてみた。

それぞれの漁には、その土地ならではの歴史や人の営みが映し出されている。

冷蔵庫やトラックがなかった時代、海は今よりも恵みにみちた宝の海であったとしても、その恵みは、数日で価値を失ってしまうものだった。獲った魚や貝は、干物をのぞけば、数日のうちに人の足や舟で運べる範囲だけで流通していたわけで、今の言葉でいえば地産地消ということになる。したがって、地元で消費できる以上にたくさん獲るという考えは、生まれてこなかったのだろう。

輸送や保存の技術が進歩して、漁が大きな産業となる過程で、昔ながらの漁法の多くは消えてしまったが、それでもまだ、各地に伝統の漁法が伝わっている。あるものは他に代わるものがない優れた漁法であるという理由で。あるものは楽しみや郷愁として。

それぞれの漁には、その土地ならではの歴史や人の営みが色濃く映されている。近代化の中にあっても、それが受け継がれていることを喜びたい。長い時間をかけて受け継がれてきた宮崎の伝統漁法には、先人たちの深い知恵や技術とともに、人が海と寄り添うように生きていた時代の、豊かな空気が流れていた。それは、宮崎の海そのものの豊かさなのかもしれない。