宮崎県季刊誌「Jaja」じゃじゃ
田毎の月

profile
1941年東京生まれ。1966年、坂上二郎さんとコント55号結成。「コント55号のなんでそうなるの?」「欽ちゃんのドンといってみよう!!」など、70年代から80年代にかけて、記録的な高視聴率番組を連発。2005年、茨城ゴールデンゴールズを結成して監督に。日向キャンプでは特産品のきんかんをもじって「欽監」と呼ばれている。

日向ゴールデンゴールズで、
宮崎の野球物語を始めましょう

絶妙のマイクパフォーマンスと選手たちが織りなす物語で、野球界に旋風を巻き起こした茨城ゴールデンゴールズ。監督の萩本欽一さんが夢見る『物語としての野球』や、構想中の日向ゴールデンゴールズ、そして宮崎への思いについて、欽ちゃんの熱血トーク。

日向の人には恩があるの。
あの盛り上がりが野球界を変えちゃった。

2月の日向キャンプでゴールデンゴールズがスタートしたわけなんだけど、あれですべてが決まっちゃったよね。あの「わーっ」という盛り上がりで絵を作ってくれたでしょ。だから、僕は日向の人には恩があるの。野球界に向かって、こんな野球もあるんだという凄いボールをね。剛速球じゃないかもしれないけど、なんかもの凄い変化球を投げてくれた。

あれから全国にクラブチームがたくさんできたし、本拠地の桜川村(現稲敷市)でも日向に負けちゃいられないって、ファンクラブもできた。北海道なんかそれまでクラブチームはゼロだったのに、今、5つもあるの。町の人の応援があれば野球はできるっていうことが伝わったのね。そういう動きのすべてが日向から始まったんだし、それをやったのは僕や選手というよりも日向のお客さんたち。あのノリの良さがアマチュア野球界を変えちゃった。

地元の海岸清掃とか、きんかんの収穫とかの『欽トレ』をさせてもらったのも、恩返しのつもりだったんだけど、慣れなくてもうひとつ役に立てなかったね。来年はもっとちゃんとやります。選手にも日向に恩のあるやつがいるよ。林政至って37歳の選手なんだけど、ゲームで打席に入った時に「この選手は引退の瀬戸際です。この打席で打てば、来年も野球ができるでしょう」って僕がマイクで言ったの。そしたら日向のお客さんたち、「林、打てーっ」「野球やめるなーっ」って凄い声援でね、ほんとに打っちゃった(笑)。あいつが今でもチームにいるのは、日向のお客さんが打たせてくれたから。もっとも林は、公式戦では一試合も出てないけどね(笑)。

2月の日向キャンプでは「欽ちゃん球団」が大声援で受け入れられた。「家族がみんなでスタンドに来て、それぞれに楽しめる野球」をめざして、この秋、日向ゴールデンゴールズ誕生へ

野球物語を作るのは、選手の心と言葉
監督はそれを演出する人

僕は今の野球界に不満があってチームを作ったんじゃなくて、野球という面白いドラマを一番近くで見たくて監督になったの。そのドラマを演出して、もっと面白いものにしたいって思った。勝つだけの野球なら、試合が終わればお客さんの半分はつまらないわけ。東京ドームの巨人戦で巨人が負ければ、みんなつまらない。野球は時々、勝っても負けても、お客さんみんなが「ああ、よかったな」「面白かったな」ってゲームがある。そういう野球を僕自身が見たかったし、そういうことをやれるチームを作りたかった。それがゴールデンゴールズなのね。僕がやろうとしているのは、野球物語。ドラマとしての野球ね。

だから僕は選手を採る時、野球の技術なんか見ない。人を見るのね。野球というドラマの中に入っていける選手かどうか、お客さんに伝わるものがあるかどうかが大切なの。今、そういう物語の中にいる選手が、さっきの林以外にも何人かいるんだけど、まずエースの仁平翔ね。高校を出たばかりの選手。都市対抗野球の茨城県予選で強豪の日立製作所に当てるために、あいつを温存してたら、その前の試合で負けそうになった。7回まで進んで4対1で敗色濃厚って時に仁平を呼んで言ったの。「お前、チームで一番若くてみんなの弟みたいなもんなんだから、『ぼくを明日の試合で投げさせてください。打ってください』って頼め」って。そしてベンチから必死で叫んでたら、打つわ打つわ、それから5連打が始まって逆転勝ちしちゃった。僕はいかにも野球っぽい野次とかかけ声が大嫌い。そうじゃなくて、こういう仁平みたいな心の叫びとか、必死の言葉が野球を作っていくんだと思う。

それから、最近、初めて敵の選手が好きになったの。片岡安祐美って、女子野球の日本代表の選手がいるんだけど、彼女が初めてヒットを打った時の相手の投手。秋田選抜の津口っていうのね。この人、捕手とサイン交換しながらニコッと笑ってね、全球、全力でストレートだけ投げてきた。かっこよかったねえ。なんて男らしいやつだと。打った安祐美も偉いんだけど、この津口のかっこよさね。安祐美に最初からカーブで入ってくるやつもいるのよ。がっかりするよね。勝てばいいのって。そういうチームとは二度とやらない。僕がやりたいのは、そんな野球じゃないもの。

ソフトバンクの二軍とやった時もしびれました。8回を終わった時に規定時間を過ぎちゃって、試合終了なんだけど、その時に客席から大アンコールが起きたのね。最初は一人、次が30人、300人、3000人って具合に球場全体にアンコールの声が広がった時に、ソフトバンクのスタッフが数人、役員のところへ駆けていって「この試合を終わらせてはいけません」って直訴してくれた。でも、相手のピッチャーはもうクールダウンしてて投げる人がいない。そしたら秋山幸二監督が出てきて投げてくれたのね。打者は僕よ。ピッチャーゴロでヘッドスライディングして大歓声をもらって試合終了。その後、打ち上げの席でスポンサーの社長さんがいない。聞くと「この涙は誰にも見せられない」って先に帰ったって。僕も泣いたよ。たった一人のアンコールの声が、こんなドラマまで作っちゃった。

「地元にはゴールデンゴールズで潤ってほしいから、商標なんかもうるさいこと言わない。儲かったら自主的に持ってくるようにってスタンスね。茨城にはゴールデンゴールズのロゴが入った卵や佃煮まであるのよ(笑)」

お気に入りの宮崎の地で
日向ゴールデンゴールズ結成へ

宮崎はもともと大好きで、以前はお正月の1週間くらい番組のスタッフや家族を連れて、宮崎で過ごしてた。あったかいし、人がいいし、定食が日本一安いところだよね(笑)。今度は日向ゴールデンゴールズを作るよ。10月にトライアウトをやります。入団の条件は第一に宮崎出身であること。第二に九州出身であること。以上、それだけ(笑)。

この秋、「日向野球物語」を始めるから、宮崎の人はスタンドや町からぜひ参加してね。あきらめる人がいなければ、この物語は終わらないから。日向の言葉、日向の心、日向の魂をグラウンドに出せる選手が集まってくれれば、面白いチームになるよ。そして茨城ゴールデンゴールズと最高の試合をやりたいね。

山崎さんと大物イシダイ

言葉をじっと考え込みながら、時間をかけてサインを書く萩本さん。「受け取る人と心のキャッチボールをしたいから」

    

茨城ゴールデンゴールズ特設サイト 
http://www.goldengolds.com/