宮崎県グラフ誌「Jaja」じゃじゃ

 

Jajaバックナンバー

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穀類を与えたお肉の脂の香りは、
焼酎の風味と響き合い、抜群の相性です。

インタビュー●ソムリエ 田崎真也さん

1995年、世界最優秀ソムリエコンクールに優勝、2010年には国際ソムリエ協会会長に就任された「世界一のソムリエ」田崎真也さんは、実は焼酎にも多くの著作がある大の焼酎党。そんな田崎さんに、宮崎焼酎と宮崎産のお肉のおいしい味わい方について語っていただきました。

宮崎焼酎を語る田崎真也さん

多彩さが魅力の宮崎焼酎

― 宮崎の焼酎について、どんな印象をお持ちでしょうか。
宮崎の焼酎の特徴は、まずその多彩さにあると思います。大きく分けると県北部は麦焼酎の歴史があり、県南部ではいも焼酎が好まれてきたわけですが、同じ銘柄でいもと麦の両方を出しているところも多いですね。
それから、そば焼酎の発祥の地でもあります。本場九州の焼酎が全国に普及していく中で、トップを切ったのが宮崎のそば焼酎と鹿児島のいも焼酎でした。さらにトウモロコシや粟、米の焼酎もあります。

― アルコール度数や造り方もいろいろですね。
そうですね。宮崎県内ではほぼ20度の焼酎が飲まれていますが、鹿児島に近いところだと25度のものと両方作るところもあります。さらに40度前後の高い度数のものがあり、原酒があり、いち早くウイスキーのように木の桶で熟成させたものも造りました。さらに昔から日本酒の醸造文化もあり、最近ではビールやワインもいいものができています。ほんとうにいろいろな酒類のお酒が造られている土地だなという印象があります。

脂の香りを引き立てる焼酎

宮崎のお肉

― 今、宮崎牛や鶏の炭火焼きなど宮崎のお肉が人気を呼んでいます。焼酎との相性はどうでしょうか。
それは最高の相性ですよ。鶏の炭火焼きでいいますと、皮のゼラチン質の味わいや脂の風味が、昔ながらの製法で造った本格焼酎によく合います。特にお湯割りで飲むと風味が引き立ちますね。

― 牛肉や豚肉はどうでしょう。
実は、鶏も豚も牛肉も、基本的には同じことなのです。最近話題のイベリコ豚もそうですが、穀類やドングリなど自然の炭水化物を与えて太らせた肉には、バターやナッツに似た独特のフレーバーがあり、それが本格焼酎のフーゼル油の香りによく似ています。これが、相性といわれるものの正体なのですね。

― フーゼル油について、少し詳しく聞かせていただけますか。
フーゼル油は蒸留の過程で生成されるもので、30年ほど前までは雑味のもとになるとか、二日酔いになるという俗説もあったりして、これをなるべく取り除く試みもされていたのですが、フィルターで徹底的に除いてしまうと、味もそっけもないものになってしまいます。現在では、フーゼル油こそ焼酎に複雑さを与える香味の成分だというのが常識になっています。この香りが、穀類を与えた肉の脂と、互いに響き合うような相性の良さがあるわけです。たとえば、いもで造った焼酎と、いもを食べて太った豚は、どこかで同じ風味があるという具合に考えればわかりやすいかと思います。

宮崎焼酎イメージ写真

― なるほど、宮崎に焼酎に合う料理がたくさんあるのは、偶然ではないのですね。
私は、その土地の食べ物はその土地のお酒が作るのではないかと思っています。宮崎にはいい焼酎があったために、自然とおいしい食べ物や料理法が、焼酎に寄り添うようにして育ってきたのではないでしょうか。一方で、日南市には減圧蒸留のさっぱりした風味の焼酎があり、新鮮な魚を刺身で食べるのにはとても向いています。これは土地の食べ物が、減圧蒸留という新しい技術にマッチした例だと思います。いずれにしても、土地ごとの自然や気候風土のすべてが、お酒や食べ物の味わいを作っているわけです。

― 焼酎に合うお肉の食べ方はどうでしょう。
焼き肉、ステーキ、しゃぶしゃぶと、それぞれにおいしいのですが、ひとつ宮崎の代表格を挙げれば炭火焼きでしょうね。肉の部位としては、少し脂があって皮に近いところがいいと思います。炭火焼きは、いわばスモークしながら焼く技法ですので、肉自身の脂が煙となって肉に香りを与え、さらに風味がよくなります。

― 理想的な飲み方はありますか。
肉の脂の風味を味わうなら、焼酎の香りを引き立てるお湯割りがいいですね。私は、アルコールが食事によく合う度数は15度前後と考えているので、理想的には飲む3日くらい前に15〜16度くらいになるように水を加えて寝かせたものを、温めて飲むのが最高だろうと思います。
その場で割る時は、お湯が先がいいという人と、いや焼酎が先がいいという人がいますが、私はどちらでもいいと思っています(笑)。気の合った人と、楽しく飲み、楽しく食べるのが一番ではないでしょうか。

田崎真也さん(Shinya Tasaki)プロフィール
1958年 東京都出身
1983年 第3回全国ソムリエ最高技術賞コンクール優勝
1995年 第8回世界最優秀ソムリエコンクール優勝
1996年 1995年度 都民文化栄誉章 受章
1999年 1999年度 フランス農事功労章ジュヴァリエ受章
2008年 平成20年度卓越した技能者(現代の名工)受章
2010年 国際ソムリエ協会会長就任

宮崎のお肉を楽しむ