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日向市美々津。まるで渓流がそのまま海に注いでいるかのような石並川のほとりに、佐々木寛次郎さんの和紙製造所はある。 和紙の原料となるコウゾやミツマタを産する宮崎では、古く平安時代から和紙が作られていたといわれるが、江戸時代に入り、美々津の港から大阪方面に出荷されるようになったことで、「日向の紙」はその名を高めた。かつては国富、綾、穂北など各地に多くの製造所があったが、現在は佐々木さん一軒だけが、その伝統を受け継いでいる。 「美々津の和紙は、石並川の流れがあってこそ。釜で煮たコウゾをさらすのに、水がきれいで流れがほどよい石並川は最適です。原料のコウゾやミツマタは南郷村の山から採りますが、まだまだ大丈夫。この川も、幸いいつまでもきれいですので、あとは人。後継者が育ってくれれば」 その後継者も、娘の実穂さんが修行を始めてめどがついたが、佐々木さんは後継者問題は和紙だけの問題ではないという。 「無形文化財に指定された時に、あらためて思いましたが、工業化、近代化とのせめぎあいの中で、伝統工芸をどう残していくかは地域全体で考えていただきたい問題。私もこれからは、古式にのっとった最近ではあまり使わない技法でも紙を漉いて、技術を正しく残していかなければと思っています」 「紙漉き特有です」と佐々木さんが笑う、まるで剣道家のような太い手首で「すげた」を振ると、静かな水音の中から、一枚一枚、魔法のように紙が生まれてくる。平安時代から続く伝統の技が、その二本の手に生き続けている。
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