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宮崎の本格焼酎

◎インタビュー 古澤醸造合名会社代表・杜氏 古澤昌子さん

「やわらかくて、やさしい味」がする宮崎焼酎。
飲み飽きせず、食中酒として最適です。

宮崎の本格焼酎

宮崎県には38の焼酎蔵元と43の醸造所があります。 宮崎で酒といえば、焼酎といわれるほど人々に愛され、 造り手もそれぞれの持ち味や伝統をいかし、 芋、麦、米、そばと多彩な味を生み出しています。 蔵の一つ、日南市大堂津に120年にわたり続く 古澤醸造の五代目当主、古澤昌子さんに、 自らの焼酎造りへの思い、宮崎焼酎の魅力について語っていただきました。

古澤醸造合名会社代表・杜氏 古澤昌子さん
古澤醸造合名会社代表・杜氏 古澤昌子さん
プロフィール 日南市大堂津にある古澤醸造の長女として生まれる。東京農業大学短期大学部醸造科を卒業後、専門学校を経て蔵に入り、父である四代目・教雅さんのもと焼酎造りを始める。平成19年より五代目として蔵を継ぐ。蔵の代表銘柄に「八重桜」、「一壷春」、「ひとり歩き」など。

食べ物と焼酎は一心同体

――古澤さんは全国でも数少ない女性杜氏です。杜氏を志したきっかけは?

蔵に男の跡継ぎが生まれなかったことがきっかけになると思います。わが家は3人姉妹で私が長女。小学生のときから蔵は私が継ぐものと思っていました。
母も先代である父が婿に来るまで先頭に立って蔵を守っていましたので、女性だからといって特別な意識はありませんでした。

――古澤醸造の創業は明治25年(1892年)。非常に歴史ある蔵です。

隣町の南郷町目井津に江戸時代からある古澤の本家から分かれて、大堂津で始めました。屋号に「醸造」とあるように昔は清酒のほか、醤油や味噌、酢も作っていたようです。

現在は、芋焼酎が全体の7割ほどを占めていて、残りが麦焼酎、米焼酎、そば焼酎です。宮崎はそば焼酎の発祥の地ですので、宮崎らしさをアピールするために、そば焼酎は欠かせないアイテムです。

――県内では唯一の「土蔵」を使っているそうですね。

土蔵は外気の影響を受けににくく、蔵内の温度を一定に保ちます。

温度が一定であることは、もろみの発酵や蒸留した焼酎の熟成など、いろいろな面でよい影響を与えます。

またうちの蔵は、仕込み甕を完全に地中に埋めずに、上半分が地上に出るくらいの位置になっていますが、これも蔵内部の温度が低く保たれているからこそできることです。地上半分くらいの位置にあることで、仕込みのとき腰を曲げずに作業ができ、踏ん張りが利くので作業効率がよいのです。

――焼酎を造るときにはどんなことを考えているのですか?

顔(もろみの表面)を見て、香りを確かめ、音を聞き、ひたすらよい焼酎になるように祈っています。もろみは、例えば2日目と3日目では表情が違いますし、櫂棒を当てたときの手応えも違います。生きものであることを実感するときです。

――丹精込めて仕込んだ焼酎が完成したときには、喜びもひとしおでしょう。

作る喜びはもちろん、お客様にそれを飲んでいただけることが何よりの喜びで、励みになります。

先代の教えで「近所のテーブルにのらない酒は造らない」という言葉があります。宮崎では「だれやみ」といわれるように、焼酎が1日の疲れを癒す庶民の酒として親しまれてきました。手軽な値段で気軽に飲めるのが焼酎のいいところで、暮らしや食文化に寄り添っているのが宮崎の焼酎だと思います。

焼酎の製造過程
1.収穫された芋は下処理をした後、すぐに蒸し器へ。芋は傷みやすいだけにスピードが命だ。
2.日南市の酒屋の女将4名による「日南四葉会(にちなんしようかい)」が企画し、原酒の提供やブレンドなどを古澤さんが協力するかたちで生まれた本格芋焼酎「嫋(たおやか)なり」。一般女性の焼酎の好みなど、日南四葉会とのやりとりで得るものは大きいと古澤さんはいう。
3.麹をつくる場所「麹室(こうじむろ)」。内壁の外壁の間にはもみ殻が詰めてあり、最適な温度と湿度を保つ。
4.甕のなかで発酵を続けるもろみ。刻々と表情を変えていく。

やわらかくて、 やさしい宮崎焼酎

――宮崎にとって、食べ物と焼酎は一心同体なのですね。

日南でいえば、とれたてのカツオや伊勢海老など新鮮な海の幸とともにいただく焼酎は格別です。鶏の炭火焼きなどお肉との相性もよいですね。

私は県外へ営業に行くときは、焼酎と一緒に宮崎の食べ物を持っていきます。なかでも鶏の炭火焼きは先方に大変喜ばれます。最近はカツオのしょうゆ節や、魚うどんも持っていきますが、こちらも受けがいいですよ。

――焼酎を仕込む際にも、食べ物との相性を考えて造られるのでしょうか?

本格焼酎として香りや味を保ちながら、食事の邪魔をしない、食中酒として最適なバランスになることを意識しています。

宮崎の言葉でいえば「てげてげ」です。「てげてげ」というと、いい加減とか、あまりよくない捉え方をされますが、一つに偏ることなく、ちょうどいいバランスを保っているという意味です。「中庸」という言葉に置き換えてもいいと思います。 

――バランスの良さは、宮崎の焼酎全体の良さでもあるように思います。

宮崎には38の蔵があり、いろいろな本格焼酎が造られています。全体の特徴として「やわらかくて、やさしい味」がすることが挙げられると思います。やわらかい味がゆえに、飲み飽きせずに食中酒として最適です。

――「やわらかい味」は、何に由来するものでしょう?

造る人の人柄があるでしょう。専門的には「酵母」も関係していると思います。38の蔵ごとに使う酵母は異なりますが、全体的にやわらかな仕上がりになるものが用いられています。蔵同士で申し合わせているわけではないので、結果的にそうなっているのですが、数ある酵母のなかからそうした特性のものが選ばれていることを考えると、やはり県民性のようなものが関係しているのかもしれません。

――蔵の主として、宮崎焼酎の担い手として、今後の抱負をお聞かせください。

県内38の蔵が、宮崎焼酎というつながりをもちながら、それぞれの良さを出して、より魅力的なものに高めていければと思います。宮崎には大きい蔵、小さい蔵とありますが、規模に関係なくそれぞれが一つの蔵として認められ、味や造りが評価されている点が良いところです。

焼酎は嗜好品であり、味や香りも様々です。38の蔵が造るいろいろな銘柄から、自分に合ったものを選んでいただきたいですね。