掲載開始日:2026年5月28日更新日:2026年5月29日
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延岡市北浦町にある「まなぶ農園」。この農園を主宰する松原学さんは、普段は養鶏・採卵を営む一方で、「みやざきの食と農を考える県民会議」における「食育ティーチャー」(注)として地域の子どもたちと野菜づくりに取り組んでいます。
そんな松原さんが、この春新たに挑戦したのが「井戸づくり」です。
今回は、子どもたちと新たな井戸を使っての「水汲み式」にお邪魔しました。
(注)食育ティーチャーとは・・・食育や地産地消の輪を広げるために、「みやざきの食と農を考える県民会議」が登録・認定している指導者のこと。地域の食文化を次世代へつなぐ牽引役として、各地で調理教室や体験活動などを通じ、実践的でわかりやすい食育活動を展開しています。

松原学さん
これまで、まなぶ農園での野菜作りは「水との戦い」でもありました。水道のない場所で農業を営むため、100リットルタンクに入れた水を軽トラで運んだり、児童クラブに通う児童の保護者の方がフォークリフトを使って運んでくれたりと、地域の方々の献身的なサポートに支えられて活動を続けてこられたそうです。
「水を使う」という、普段は当たり前に感じていることが、ここでは決して当たり前ではない――。松原さんは、日々の活動の中でそのことを強く感じていたといいます。
そんな環境だからこそ、「畑で安定して水を得る方法が必要だ」と考えるようになり、およそ1年かけて検討を重ねた末にたどり着いたのが、“手押しポンプ付きの井戸で水を汲み上げる”という方法でした。
より子どもたちが主体的になれる環境を作りたい。そんな想いが今回の井戸掘りへとつながりました。
井戸掘りが行われたのは、ゴールデンウィーク期間中。地域の方々も協力し、本格的な掘削作業が始まりました。
井戸掘りの過程ですが、まずは、8mの鉄管を地面に打ち込みます。そのあとで、管内にホースを入れ、水を上から注入して打ち込んだ鉄管内の土砂を洗い流します。その後、ポンプを取り付け、水を汲み上げるという流れです。
鉄管の先には取水用の穴があり、地下水は、その穴を通して、鉄管に入りポンプでくみ上げられるのですが、はじめは地下水とともに土砂も鉄管に流れ込むために濁っています。何度も水を汲み上げることで、鉄管先端の取水口付近の土砂が取り除かれ、安定した水(土砂を含まない)になっていきます。
井戸の掘削作業そのものは、およそ2時間ほどで終了。しかし、本当の苦労はそこからでした。
最初に出てきた水は茶色く濁り、とても使える状態ではなかったそう。何度も何度もポンプを動かし、透明で澄んだ水へ変わるまでには、さらに半日もの時間がかかったそうです!

茶色く濁った水
取材に訪れたその日、ふたば児童クラブ(北浦小学校1年生から3年生)の14名が畑にやってきました。
新たに完成した手押しポンプつきの井戸に子どもたちは大興奮!!
「これ早くやりたい!!」「どうやってやるの??」と目を輝かせます。
子どもたちは3~4人ずつ交代でポンプのハンドルを上下に動かし、水を汲み上げます。
「せーの!!」という掛け声と共に、力を込めてポンプを押す子どもたち。松原さんが「水が冷たくなるまでポンプを動かそう!!」とアドバイスを飛ばすと、
「冷たくなーれ!冷たくなーれ!」とみんなで協力して一生懸命に水を出し続けました!

「冷たくなーれ!」と声を合わせてポンプを動かす子どもたち
水を汲んだあとは、野菜に水やりです!!
現在畑にはスイートコーンにスイカ、そしてカボチャが植えられています。
これからの季節に向けて野菜の生長を楽しみにしている子どもたちは、「もう水がなくなっちゃった!」「楽しい!」と、歓声を上げながら思い思いに水やりを楽しんでいました。

水やりの様子
松原さんが最も大切にしているのは、「作物を育てること」を通して、子どもたちに生産する楽しさと喜びを感じてもらうことだといいます。
「モノが溢れる時代だからこそ、普段口にする食べ物がどうやってできるのか、どこから運ばれてくるかを知ってほしい。そのためにも、地域の気候や田畑に小さいうちから触れてほしいんです」
松原さんの言葉には、子どもたちの未来を見据えた温かな願いが込められています。今回完成した井戸は、単なる設備ではありません。
水を確保するために考え、地域の人たちが協力し、子どもたちがその水で野菜を育てる――。その一つひとつの積み重ねが、子どもたちにとって大きな学びになっています。
「自分たちで水を汲み、野菜に命をつなぐ」。そんな貴重な体験を通じて、子どもたちは食べ物の大切さと、生産する苦労、そしてそれを上回る喜びを学んでいくことでしょう。
どこか懐かしさを感じさせる「手押しポンプ付き井戸」。日本では昭和10~30年代にかけて普及し、各家庭や地域で当たり前のように使われていたそうです。
蛇口をひねれば水が出る今の時代、実際に自分の手でポンプを動かし、水を汲み上げる経験をする機会はほとんどありません。だからこそ、今回子どもたちが見せてくれた「水が出た!」という素直な歓声が、とても印象的でした。
便利になった現代だからこそ、“水を得る”という体験そのものに、大きな学びがあるのかもしれません。北浦町の小さな畑で始まったこの井戸が、子どもたちにとって忘れられない原体験になっていくように感じました。
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